鋳物や機械部品などの産業が盛んな｢ものづくりの街｣として知られる、埼玉県川口市の領家地区。物流倉庫が軒を連ねる同エリアの一角に｢イチイチイチマルカフェベーカリー｣はある。広さ3000坪にも及ぶその広大なスペースは、本連載第72回でも紹介した株式会社大泉工場の敷地の一部であり、季節毎に表情を変える緑豊かなガーデン内に店舗が併設されている。1917年に創業し、鋳物産業で財を成した大泉工場は、以降、フード、ジュースマシン販売事業や発酵飲料のコンブチャ製造販売事業など、時流に即した新規事業を開拓。同社には、“地球を笑顔で満たす”ことをゴールとして目指す｢OKS｣(Oizumi Kojo Create Smile)という信念があり、それを具現化する手段のひとつとして｢イチイチイチマルカフェベーカリー｣が誕生した。

そのコンセプトは、自然、生活、身体3つの環境が｢○(まる)＝美しくなる｣こと。食事という根源的なアプローチから、自身の体の環境や健康的な日々を送るための生活環境、さらに地球規模の美化について、考えたり、気付いたりすることはできる場がこのカフェであり、訪れる人たちに｢味わい、楽しみ、感じる｣喜びを提供したいと意気込む。オーガニックかつプラントベースのメニューにこだわっているのも、こうした信念や哲学が根底にあるのだ。

｢イチイチイチマルカフェベーカリー｣で使用する食材は、すべて全国の有機農家で育てられた厳選の無農薬野菜。調理の際には水ではなくお湯で洗い、漬け込むことで野菜自体が持っている酵素や旨味成分をより引き出す工程を取り入れている。また、調理工程で出る皮や調理できない端部分は出汁を取るのに使い、その後はコンポストへ入れて肥料として再利用するなど、徹底したフードロス削減に寄与する。また、店内で焼き上げられる自家製のパンは、動物性食材、乳製品不使用。パンは乳製品を使用しないと一般的に硬く仕上がることが多いが、こちらでは、施設内で育てている花から酵母を抽出し、発酵させることで柔らかな食感を実現した。食材のみならず、毎日の食器洗いには植物から作られた身体と地球に優しい洗剤を使用するなど、環境への負荷をかけないようにあらゆる面で気を使っている。