ジョン・ガリアーノが、キャリアにおける栄光と転落、贖罪、そして｢Maison Margiela(メゾン・マルジェラ)｣での電撃復帰までを自ら語ったドキュメンタリー映画｢ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー｣が、9月20日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町他にて全国公開される。

学生時代から天賦の才を認められていたジョン・ガリアーノは、1984年、ロンドンの名門セントマーチンズ美術学校での革新的な卒業制作のショーが大評判となり、一夜にしてロンドンファッション界の寵児となった。その後、1995年に｢GIVENCHY(ジバンシィ)｣、1996年に｢CHRISTIAN DIOR(クリスチャン・ディオール)｣と、世界的なトップメゾンのデザイナーに次々と抜擢され、“ファッション界の革命児”の名をほしいままにする。しかし、絶頂期だった2011年2月に、カフェで酒に酔い、居合わせたカップルに対して反ユダヤ主義的な人種差別発言を浴びせて、駆けつけた警官に連行。一連の動画が流出し、世界中に拡散されるとその後有罪となり、「クリスチャン・ディオール」はガリアーノの解雇を決定。ファッション界の至宝と讃えられた天才デザイナーは、自らが築き上げたキャリアをすべて失うことになった。

事件から13年経った今、ガリアーノ本人がカメラの前に座り、｢洗いざらい話す｣と語ったことで、本作は完成した。監督を務めたのは、1999年ミュンヘンオリンピック事件を扱った映画｢ブラック・セプテンバー 五輪テロの真実｣でアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞したケヴィン・マクドナルド。｢ジョン・ガリアーノというキャラクターと、90年代後半から2010年代前半にかけての業界の変革における彼の役割に魅了されました｣と語る彼は、ガリアーノの人間性にも鋭く踏み込む。そして、最大のミステリーである｢彼の暴言の背景には何があったのか？｣についても、深く斬りこんでいく。 そこでガリアーノが語ったのは、自身のブランドも含めて年32回のショーを抱え、超人的な仕事量をこなしながら、相次ぐ大切な人の死、さらにアルコール依存症が加速することで｢ゆっくりと死に向かっていた｣という、ショッキングな告白であった。

映画では、大胆なスタイルで世界中を魅了していったガリアーノの栄光の軌跡を、デビューから各ブランド時代の豪華なコレクションを収めた貴重なアーカイブ映像と共に振り返る。1本の映画のように演出されたランウェイショーの裏側を語るのは、｢VOGUE｣誌の伝説的な編集長アナ・ウィンターや同誌のクリエイティブ ディレクター、アンドレ・レオン・タリーをはじめ、ケイト・モスやナオミ・キャンベルといったトップモデル、さらに俳優のぺネロペ・クルスやシャーリーズ・セロンといった錚々たる面々だ。彼らの証言によって、キャリア頂点におけるガリアーノのクリエイションの凄みが語られる一方、彼を診断した精神科医、そして、今も心の傷が癒えないという事件の被害者にもカメラを向ける。また、2011年の事件当時、ナタリー・ポートマンがアカデミー賞授賞式に着用予定だったディオールのドレスを取りやめ、ガリアーノとの決別を表明したことも話題となった。本作では、被害を受けた人たち、そして当事者であるガリアーノの言葉を通して、現代も続く“キャンセルカルチャー”が正当な抗議のかたちなのか、それとも行き過ぎた排除なのかという問題を浮かび上がらせる。