POLITICAL DOCUMENTARIES “HADAKA NO MURA”

Text_SWAG H.

POLITICAL
DOCUMENTARIES
"HADAKA NO MURA”

保守王国に根付く“ムラ社会”は日本の縮図？
社会に偏在する家父長制を抉り出すドキュメント。

ENTERTAINMENT Oct 7, 2022

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富山市議会の不正を丸裸にして大反響を呼んだドキュメンタリー映画｢はりぼて｣を手掛けた五百旗頭幸男監督が、新たに作り上げた最新作｢裸のムラ｣が、10月8日(土)よりポレポレ東中野、金沢、シネモンド他にて全国公開される。

舞台は北陸の保守王国、石川県。現職最長となる7期28年を務めた谷本正憲前知事(作中では現職)は、コロナ禍に｢無症状の方は石川県にお越しいただければ｣と失言したかと思えば、公には“4人以下での会食”を呼びかけながら自身は90人以上で会食していたことを報じられるなど、失態を繰り返す。あまりにも長過ぎた権力集中によって、周囲の者は忖度の度合いを強め、為政者は傍若無人になっていく。そんな長期県政も遂に終焉を迎え、新知事に就任したのが元プロレスラーであり、谷本の選対本部長を務めていた衆議院議員の馳浩。“新時代”をスローガンに掲げる馳だが、その背後に見え隠れするキングメーカー、森喜朗の存在もあってか、小さなムラの男たちが熱演する権力移譲劇は、どこか空虚かつ滑稽で、グロテスクですらある。また、新知事を支えるスタッフは男性ばかりで、作中では県議会において女性職員が知事席の水差しに付いた水滴を丁寧に拭う姿が繰り返しカットインされるなど、現代のジェンダーバランスはまさにどこ吹く風だ。

本作は、石川テレビ制作のドキュメンタリー番組｢裸のムラ｣と｢日本国男村｣を基にした作品であり、カメラは政治家だけではなく市井の生活者にも向けられる。同調圧力の強い社会で暮らすムスリム一家、車で移動しながら生活や仕事をするバンライファーの家族の姿からは、理想や自由をめぐる葛藤と矛盾が沸々と浮かび上がる。また、家族という最も小さなムラで生きる親子の関係性など、長期に渡る密着の過程で複雑に変化していく。

監督を務めた五百旗頭幸男氏は、旧統一協会と富山政界の繋がりを独自に取材するなど、骨太な方針で知られる富山のチューリップテレビを辞めた後、新天地の石川テレビでこの作品を制作。映画は、保守色の強い石川県のいかんともし難い現状を通して私たちが暮らす日本社会に偏在する家父長制の歪なかたちを笑いと共に抉り出していくのだが、被写体と真正面から対峙していく中で、監督自身も次第に高圧的な姿を晒すことになる。

©︎北陸中日新聞五百旗頭幸男監督

政治家、公務員、有権者、マスメディア、それぞれが各々の立場で一生懸命に動きながら、何かがズレているおかしな構造を善悪の単純な二元論では図れないグラデーションの部分も含めて、どこかユーモラスに描いている。しかし、笑うに笑えないマチズモなムラ社会が、石川だけではなく日本全体に深く根差していることを、本作を見終わった後にあらためて誰しもが気付かされることだろう。

INFORMATION

裸のムラ

10月8日(土)より［東京］ポレポレ東中野、［石川］シネモンド他全国順次公開

監督：五百旗頭幸男
撮影：和田光弘
編集：西田豊和
音楽：岩本圭介
音楽プロデューサー：矢﨑裕行
プロデューサー：米澤利彦
製作：石川テレビ放送
配給：東風
2022年｜日本|118分|ドキュメンタリ―
©石川テレビ放送

www.hadakanomura.jp