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衆院選「香川1区」の戦いを与野党両陣営と,
有権者の視点から描いた傑作ドキュメント。
ENTERTAINMENT Dec 24, 2021
去る10月31日に開票が行われた第49回衆議院選挙において、最激戦区の選挙戦に焦点を当てたドキュメンタリー映画「香川1区」が、12月24日(金)より都内3箇所の劇場で先行公開される。
本作は、立憲民主党の衆議議員、小川淳也氏の初出馬からの17年間の軌跡を追った「なぜ君は総理大臣になれないのか」の続編にあたるもの。2020年に公開された同作品は、ドキュメンタリー映画としては異例の観客動員35,000人を超える大ヒットを記録、「キネマ旬報」誌ベストテンの文化映画第1位を受賞するなど、各所で大きな話題を呼び、現在でもネットフリックスやアマゾンプライムで配信されてさらに広がり続けている。
前作同様に、これまで数々のドキュメンタリー番組を手掛けてきた大島新が監督を務めた本作では、前回の総選挙で僅か2000票の差で落選(その後、比例で復活当選)した小川淳也氏と、その相手候補でもある自民党の平井卓也氏、さらに選挙公示直前に急遽参戦した日本維新の会の町川順子氏の三つ巴による選挙戦を、与野党両陣営の有権者の視点も織り交ぜて描く。映画の主人公、小川淳也氏は、前作でその純粋さや清貧さ、生真面目さを目の当たりにした観客から“こんな政治家がいたのか?”という声が上がるなど、一躍注目を集める。しかし、2003年の初出馬以来、1勝5敗という成績からも分かるように選挙に弱く、常にその前に立ちはだかっていたのが自民党の平井卓也氏である。電通出身の平井氏は3世議員で、地元香川でシェア6割を誇る四国新聞と西日本放送(日本テレビ系)のオーナー一族という絵に描いたような地元の名士。現在でも平井氏の弟が四国新聞社の社長を務め、母親が社主という“香川のメディア王”とも称される平井氏に対し、小川氏は選挙に必要な“地盤、看板、カバン(資金力)なし”の自称パーマ屋のせがれであり、両候補の対照的なバックボーンを含めて今回の総選挙でも、県内外から大きな関心を集めていた。
小川氏にとっては今回も苦戦が予想されていたが、菅義偉政権で内閣の目玉であったデジタル改革担当大臣という要職に就任したライバルの平井氏は、東京オリンピック、パラリンピックのアプリ開発における不適切発言や、NTTからの高額接待疑惑などにより、新聞や週刊誌の標的となったことで徐々に小川氏への追い風が吹いていく。大島監督は、与野党両陣営と候補者、さらにそれを支持する有権者の言葉に丁寧に耳を傾けることで、監督がいうところの日本中に存在するであろう「香川1区」の象徴的な選挙を通して、日本の民主主義の今の姿を鑑賞者に問いかける。
多くの人がご存知のように結果からいえば、小川淳也氏は9万票あまりを獲得し、前職の平井卓也氏に約2万票の差をつけて12年振りに小選挙区での当選を果たした(平井氏も比例で復活当選)。当選確実の報を受けて、共に選挙戦を戦った家族と共に大粒の涙を流しながら有権者に頭を下げる様子を、テレビ等で見た人も多いだろう。私も含めて少なからず溜飲が下がる思いをした者もいるはずだ。さらに言えば、“結局何も変わらない”と選挙に行かなかった有権者に対して、それ見たことかという気持ちも多少ならずともあったに違いない。
その後、小川氏は衆院選挙で議席を減らした責任をとって代表を辞任した枝野幸男氏に代わる立憲民主党の代表選挙に立候補し、最終的に敗れはしたもののその存在感を周囲に強く示した。一方で、当選後に出演したテレビの報道番組では、“共産党との共闘で議席以外にも失ったものがあるか?”という問いに対し、躊躇なく挙手するなど野党協力に一縷の望みを託した有権者にとっては、いささか腑に落ちない言動があったのも確かだ。それを含めて有権者は、小川氏はもちろん、平井氏を含めて当選した議員たちの今後をこれまで以上に注視、厳しい言い方をすれば監視していかなければならない。大島監督は、開票日の夜、当選に沸き立つ小川事務所で「これは小川の勝利というより、支持者たちの勝利だ」と感じたという。それと同時にこの映画の真の主人公は有権者であるとも語っている。それは、本作での密着撮影を通して、候補者を懸命にサポートする支持者の熱量を強く感じた大島監督ならではの本心だろう。この国の将来の行く末を握っているのは他でもない、国民である私たちだということをこの作品は雄弁に伝えてくれるのだ。
ポレポレ東中野/ヒューマントラストシネマ有楽町/シネ・リーブル池袋
2022年1月21日(金)よりイオンシネマ高松東ほか、全国順次50館以上で公開
監督:大島新
プロデューサー:前田亜紀
撮影:高橋秀典
編集:宮島亜紀
音楽:石﨑野乃
監督補:船木光
制作スタッフ:三好真裕美、遠上恵未
宣伝美術:保田卓也
宣伝:きろくびと
配給協力:ポレポレ東中野
制作/配給:ネツゲン
2022|日本|カラー|DCP|156分
©ネツゲン
www.kagawa1ku.com