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ABOUT OCT, 2024
「A」,「FAKE」を手掛けた森達也初の劇映画は,
闇に葬られた“福田村事件”が題材の群像劇。
FASHION Jul 28, 2023
日本を代表するドキュメンタリーディレクターであり、映画監督や作家としての顔を持つ森達也にとって初となる劇映画作品「福田村事件」が、9月1日(金)よりテアトル新宿、ユーロスペース他にて全国公開される。
本作の題材となったのは、今から約100年前の1923年9月6日に千葉県東葛飾郡福田村(現在の野田市)の利根川沿いで起きた幼児や妊婦を含む9人が殺害された福田村事件。同年9月1日に起きた関東大震災の混乱のさ中、差別的なデマや噂に惑わされた村の自警団によって、香川県から訪れた売薬行商団が殺害された悲惨な事件である。加害者の自警団員7名が懲役刑となったが、確定判決から2年5か月後に昭和天皇即位による恩赦で釈放。事件はその後、長い間タブー視され、半ば闇に葬られる形となったが、1980年代に入りようやく共同調査や香川県での聞き取り調査が始まり、新聞などでも取り上げられるようになる。2000年になると香川で「千葉福田村事件真相調査会」が、千葉でも「福田村事件を心に刻む会」が結成。ようやく現場に犠牲者追悼の慰霊碑が建てられたのは、事件から80年目となる2003年のことである。
監督を務めたのは、オウム真理教信者たちの日常を追った傑作ドキュメンタリー「A」や、その続編「A2」をはじめ、“盲目のベートーヴェン”と呼ばれた作曲家、佐村河内守のゴーストライター問題をテーマにした「FAKE」などの作品で知られる森達也。長年ドキュメンタリーを主戦場にしてきた森にとって初の劇映画であり、実話に基づいたフィクションとして事件から100年目となる今年の9月に劇場公開される。
物語の舞台は千葉県の東葛飾郡福田村。朝鮮で日本軍による虐殺事件を目撃した澤田智一(井浦新)は、 妻の静子(田中麗奈)を連れ、智一が教師をしていた日本統治下の京城を離れ、故郷の福田村に帰ってくる。同じ頃、沼部新助(永山瑛太)率いる薬売りの行商団は、関東地方へ向かうため四国の讃岐を出発する。長閑な日々を打ち破るかのように、9月1日、空前絶後の揺れが関東地方を襲う。人々が大混乱に陥る中でいつしか流言飛語が飛び交い、瞬く間にそれは関東近縁の町や村に伝わっていった。2 日には東京府下に戒厳令が施行され、3日には神奈川に、4日には福田村がある千葉にも拡大される。福田村にも避難民から「朝鮮人が集団で襲ってくる」「朝鮮人が略奪や放火をした」との情報がもたらされ、疑心暗鬼に落ち入り、人々は恐怖に浮足立つ。地元の新聞社は、情報の真偽を確かめるために躍起となるが、その実体はようとして掴めないでいた。そして 9月6日、偶然と不安、恐怖が折り重なり、 後に歴史に葬られることとなる大事件が起きる……。
主要キャストには、井浦新、田中麗奈、永山瑛太、東出昌大が名を連ね、柄本明や豊原功補といったベテラン陣に加え、コムアイ、ピエール瀧、水道橋博士といった異色の面々が脇を固めた。
悲惨な事件に繋がった根深い民族や被差別部落(被害者となった行商団は香川県の被差別部落の人たちであった)に対する差別は、本作におけるな重要な要素だ。また、善良だったはずの村民が民族差別を下敷きにしたデマに煽動され凶行に走る点では、ラジオ放送によるプロパガンダがその要因となった1994年のルワンダ虐殺をも想起させる。噂や憶測の裏を取ることなく、デマを拡散させる巨大なスピーカーとなってしまったメディアの責任も含めて、事件から100年経った今でも同じような意識的/無意識問わず差別意識に端を発した事件や問題は度々起こっているのが実情だ。監督を務めた森達也も本作に寄せたステイトメントの中で、多数派が少数派を標的とする中で虐殺や戦争が起きるとし、人類の歴史はこの過ちの繰り返しだと述べている。そして、「福田村事件」がそうであったように皆が目を背け、見て見ないふりをしてきたことを自省し、「だからこそ知らなくてはならない。凝視しなくてはならない」と、説く。
本作は、これまでほとんど語られることのなかった「福田村事件」について、多くの人が知ることができるきっかけとなるに違いない。そして、現代も根強く残るありとあらゆる差別や人権問題について理解を深める一助になるはずだ。避けることができなかった悲しい出来事を凝視し、過ちを再び起こさないよう学ぶことは現代に生きる人たちの責務であると言えよう。
9月1日(金)よりテアトル新宿、ユーロスペース他全国公開
監督:森達也
脚本:佐伯俊道、井上淳一、荒井晴彦
出演:井浦新、田中麗奈、永山瑛太、東出昌大、コムアイ、木竜麻生、松浦祐也、向里祐香、杉田雷麟、カトウシンスケ、ピエール瀧、水道橋博士、豊原功補、柄本明
配給:太秦
2023 年|日本|DCP|5.1ch|137分
©「福田村事件」プロジェクト2023
www.fukudamura1923.jp