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ABOUT FEB, 2025
浮世絵の頂点にして異形。“春画”の世界を通して
当時の社会的背景や日本の姿に迫るドキュメント。
ART Nov 24, 2023
当代きっての浮世絵師たちが、肉筆や版画で“性の交わり”を描いた春画の魅力を解き明かすドキュメンタリー映画「春の画 SHUNGA」が、11月24日(金)よりシネスイッチ銀座他にて全国公開される。
葛飾北斎や喜多川歌麿といった江戸の名だたる浮世絵師が、並々ならぬ情熱を捧げたアートフォームであり、江戸文化の裏の華とも言える春画。当時は、彫りや摺(す)りの高度な技術も投入され、“美”や“技”において超一流の芸術とも呼べる作品が数多く生み出されたが、時代が江戸から明治に変わると一転、“猥褻物”として警察による取り締まりの対象となり日本文化から姿を消してしまった、言わば禁じられた美の世界を探求するのが本作である。
そもそも、春画が性別を問わず楽しめるアートとして再評価の機運が高まったのも、ごく最近のことであり、2013年にロンドンの大英博物館で開催された世界初の大規模な春画展がそのきっかけのひとつとなった。同展覧会に訪れた半数以上は女性であり、2015年~2016年に東京と京都で開かれた日本で初めての「春画展」は動員29万人を記録。ここでもその約半数が女性だったという。
本作は、そんな普遍的な魅力を備えながら、いまだ知られざる部分も多い春画の魅力についてあらゆる角度から迫り、その奥深くへと観る者を誘っていく。スクリーンに映し出されるのは、北斎の有名な“蛸と海女”の絵、歌麿の「歌満くら」、鳥居清長の「袖の巻」、鈴木春信の「風流艶色真似ゑもん」に加え、大名家への嫁入り道具と伝えられる華麗な肉筆巻物や、ヨーロッパのコレクター秘蔵の「春画幽霊図」など、バラエティに富んだ傑作群だ。中には、贅を尽くした源氏物語のパロディ「正写相生源氏」(歌川国貞)の絢爛豪華な“極初摺り(ごくしょすり)”も登場する。これらの作品は、その時代の先駆的な作家が手掛けているだけでなく、金や銀などを惜しみなく使い、超絶技巧を駆使した立体的な表現は、現代では再現不可能とまで言われている。浮世絵の頂点とされる作品も少なくない春画だが、そうした傑作が誕生した社会的背景とは一体どんなものだったのか? 本作では、春画を通して当時の風俗、文化、人々の思いを立体化すると共に、現代人が知らなかった日本の姿をこれまでになかったアプローチで浮かび上がらせる。
また、春画に描かれている性愛のかたちは驚くほど多彩で、必ずしも性愛だけを描くわけではない。そこには歓喜と興奮、情熱と悲哀、嫉妬、駆け引きなど人間味溢れるドラマがあり、もちろん、男性同士や女性同士といった同性愛も描かれている。監督を務めた平田潤子は、北海道から九州、国外ではイギリス、デンマークにて美術コレクターや浮世絵研究家、美術史家、彫師、摺師などに丹念な取材を敢行。過去の名作や浮世絵師に想いを馳せると同時に、江戸時代の技術が失われてしまった現代において、技術の習得、継承という困難な課題に果敢に取り組む復刻プロジェクトや、20億画素で立体的な質感を解析する最先端のデジタル化プロジェクトなど、最新の取り組みも併せて多角的に検証する。
これまであまり知ることのなかった、めくるめく魅惑の春画の世界を是非、本作で体感してみてはいかがだろう。
11月24日(金)より、シネスイッチ銀座他全国公開
監督:平田潤子
製作:中西一雄、小林敏之
企画、プロデュース:小室直子
プロデューサー:橋本佳子
出演:横尾忠則、会田誠、木村了子、石上阿希、早川聞多、浦上満、C.Andrew Gerstle Michael Fornitz、橋本麻里、朝吹真理子、春画ール、ヴィヴィアン佐藤、樋口一貴、高橋由貴子、山川良一
朗読:森山未來、吉田 羊
製作:「春の画 SHUNGA」 製作委員会(カルチュア・エンタテインメント、TCエンタテインメント)
企画、製作:カルチュア・エンタテインメント
制作:ドキュメンタリージャパン
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
©2023『春の画 SHUNGA』製作委員会
2023/日本/カラー/ビスタサイズ/5.1ch/121 分/デジタル/レーティング:R18+
www.culture-pub.jp/harunoe/