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ABOUT OCT, 2024
パレスチナのガザ地区に住むサーファーたちを追ったドキュメンタリー映画「ガザ・サーフ・クラブ」が、シアター・イメージフォーラム他にて全国公開中。
中東のパレスチナにある地中海に面した長さ50km、幅5~8kmの細長いエリア、ガザ地区。種子島ほどの面積に約200万人の人々が住む、世界でも屈指の人口密集地である。同地区は、2007年から17年にも及ぶイスラエルの封鎖によって、周囲を壁やフェンスで覆われ、人や物資の移動をかなり制限されるなど、“天井のない監獄”と呼ばれるほど多くの一般市民が抑圧と貧困に苦しんでいる。そんなガザにとって追い討ちをかけたのが、2023年10月に始まったイスラエル軍とイスラム組織ハマスによる戦闘である。国際NGOによると、これまでガザ地区の死者は2万5000人(2024年1月21日時点)を超え、その内1万人以上が子どもだという。場所を選ばないイスラエル軍の空爆は、病院を含む住宅街にも行われており、人口の85%以上に当たる200万人近くが家を追われるなど今や壊滅的な状況に陥っている。
本作は、2016年に製作されたものだが、今なお続くガザの危機を受けて緊急公開という形で1月13日から全国ロードショーを開始。当時、希望すら見出せない厳しい状況下でも、若い世代が自由と開放を求めて海に繰り出し、サーフィンに興じる姿を記録したドキュメントである。監督を務めたフィリップ・グナートによると、世界で最も孤立し、戦争が絶えない場所で、他のどのスポーツよりも個人の自由や積極性を体現するサーフィンが人気であるという非対称性に惹かれたのだという。元々、現地の若者たちはクローゼットの扉やテーブルの天井などを利用してサーフィンを楽しんでいたのだが、ある時、厳しい制裁にもかかわらず、多大な努力が実り、約40本のサーフボードがガザに持ち込まれることになった。本物のサーフボードを手に入れたことで、ガザ地区のサーフコミュニティはにわかに盛り上がりを見せる。なかには若い女性のサーファーもいて、「女の子が海で泳ぐのは罪であり恥だ」と蔑まれるような土地柄であろうと、腰にスカーフを巻いて泳ぐなど、自分なりの抵抗をしている。そんな彼女の夢は、「世界を旅して、ガザで有名になること」だという。また、ある者は「サーフィンが自分のすべてであり、波は別世界に連れて行ってくれる」と語る。戦争が暮らしの隣り合わせにある中でも、海で感じられる刹那の幸せや自由を求めて集う若者たちの視線の先には、何も制限されることのない自由な世界が広がっているのだ。
残念ながら、この映画が作られた8年前より状況はさらに緊迫の一途を辿っている。それでも、歴史を含めてガザという都市が一体どんな場所で、そこに暮らす若者たちは何を思い、どんな夢を抱いているのか。本作を通して、その一端に触れてみてはいかがだろうか。
シアター・イメージフォーラム他全国順次ロードショー
監督、脚本:フィリップ・グナート、ミッキー・ヤミネ
製作総指揮:ミッキー・ヤミネ
プロデューサー:ベニー・タイゼン、ステファニー・ヤミネ、アンドレアス・シャープ
撮影:ニクラス・リード・ミドルトン
編集:マレーネ・アスマン、ヘルマール・ユングマン
音楽:サリー・ハニー
出演:サバーフ・アブ・ガネム、モハメド・アブー・ジャヤブ、イブラヒーム・アラファト
原語:アラビア語|英語|ハワイ語
字幕:日本語|英語
配給:ユナイテッドピープル
字幕:額賀 深雪 字幕監修:岡真理
2016年|ドイツ|87分
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