NEW GENERATION, NEW WAVE
ABOUT OCT, 2024
エルヴィスと恋に落ちた少女の魅惑的な日々を
美しく繊細に描いたソフィア・コッポラの最新作。
ENTERTAINMENT Mar 15, 2024
ソフィア・コッポラ監督の最新作「プリシラ」が、4月12日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ他にて全国公開される。
本作は、エルヴィス・プレスリーと恋に落ちた14歳の少女 プリシラがたどる魅惑と波乱の日々を、彼女の視点で描いた物語。昨年秋に全米ではA24が配給し、コッポラ作品としては「ロスト・イン・トランスレーション」(2003)、「マリー・アントワネット」(2006)に次ぐヒットを記録。主演を務めたケイリー・スピーニーがベネチア国際映画祭で最優秀女優賞を獲得するなど、最新作にして“ソフィア・コッポラ 最高傑作「ROLLING STONE」”との呼び声も高い。
1959年、アメリカ軍将校の父の転属によって西ドイツで暮らし始めた14歳のプリシラは、外国の生活に馴染めずに寂しさを抱えていた。そんな折、兵役で赴任してきた世界が憧れるスーパースター、エルヴィス・プレスリーと出会い、恋に落ちる。彼のたったひとりの特別になるという夢のような現実……やがて彼女は両親の反対を押し切って、大邸宅グレースランドで一緒に暮らし始める。美しいドレスで着飾り、貸し切ったクラブやスケート場でエルヴィスや仲間たちと夜通しパーティに興じる。そんな魅惑的な別世界に足を踏み入れたプリシラにとって、彼の色に染まり、そばにいることが彼女のすべてだったが……。
コッポラは、本作の脚本構成にあたり、プリシアが1985年に出版したベストセラー「私のエルヴィス」を下敷きにした。プレスキットに寄せたメッセージによると、監督が最も表現したかったのは、エルヴィスの世界に飛び込み、紆余曲折を経てやっと自身の人生を見つけたプリシアの心情だったという。また。エルヴィスとの離婚後、女優や実業家(*グレースランドの観光地化に成功したエルヴィス・プレスリー・エンタープライズのCEOを務めた)として成功したプリシアが、いかにして今の彼女となったのか、そして彼女とその後の世代にとって、女性であることがどのような意味を持つのかをこの映画で紐解いているとも語っている。
そのため、本作は伝記映画の体裁を保ちつつ、正確な年表を重視するより、時代のムードや流行、内側の深くにある感情をぎゅっと凝縮させることに重きをおいている。制作にあたり、コッポラは現在のプリシアと個人的に対話を重ね、プリシアの視点への理解を深めたという。伝記の執筆当時より感情面など変化した部分もあったが、コッポラは自身のジャッジを挟むことなく、常にプリシアに寄り添い、彼女の追憶に忠実であることを優先。その結果、本作はプリシアという人格の解体批評ではなく、鑑賞者がアイデンティティの創造を喚起させるようなストーリーに落とし込んだのである。
そして、コッポラ作品における重要なエレメントになるのが、衣装、音楽、芸術が織り成す世界観の構築だ。劇中のウェディングドレスはシャネル、エルヴィスのタキシードやニットなどの衣装はヴァレンティノが制作。かつてはニットにスカートといった可憐な装いを好んでいた少女が、エルヴィスの好みに応じてタイトなドレスや高く盛ったヘアスタイル、濃いアイメイクに変身していく。ただ、2人の関係性が変わり、悩み揺れながら自立心を培っていくに従って、次第にナチュラルなスタイルを志向するようになる。こうした繊細な心の機微や心情の変化をファッションやヘアスタイルが視覚的に補強している。
音楽についても同様だ。「ロスト・イン・トランスレーション」(2003)では、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインやはっぴいえんどが、「マリー・アントワネット」では、エイフェックス・ツインやニュー・オーダーの楽曲が、ストーリーに厚みを持たせる一翼を担ったが、本作では、普遍的なオールディーズナンバーが多用されている。劇伴を担当したのは、コッポラのパートナーであるフェニックスのトーマス・マーズ。60年代のアメリカングラフィティ的なカラフルで多幸感に満ちた世界と、プリシアが人知れず抱えてきた孤独を表現するために、“ウォール・オブ・サウンド”と称されるプロデュースワークで一世を風靡したフィル・スペクターのエッセンスを取り入れることを決めたという。実際に、映画はフィル・スペクターがプロデュースしたラモーンズの「ベイビー・アイ・ラブ・ユー」で幕を開ける。他にもプリシラのテーマとして流れるフランキー・アヴァロンの「ヴィーナス」やロネッツの「ユー・ベイビー」が場面に彩りを添え、物語を進める駆動力となる。そしてエンディングに流れるのは、ドリー・パートンによるカントリークラシック 「オールウェイズ・ラブ・ユー」(*ホイットニー・ヒューストンがカバーして大ヒットした同名曲のオリジナル)だ。ラストは女性の声で締め括りたいと考えていたコッポラのリクエストに答えたものだが、エルヴィスへの愛を残しながら別れるという決断を下し、自分の人生を歩み出していくプリシアの気持ちを雄弁に物語っている。
トップメゾンが作り出す60’sファッションと、カラフルな大邸宅や精巧な調度品などの大掛かりな美術セット、そして光を効果的に取り入れた映像美が織り成すノスタルジックで甘美な世界観はまさに圧巻。加えて、コッポラがこれまで描き続けてきた人間の孤独や疎外感といったビターなエッセンスが、緻密で繊細なストーリーに奥行きをもたらす。ソフィア・コッポラ監督の最新作「プリシラ」を、ぜひ劇場の大スクリーンで鑑賞してみてはいかがだろう。
4月12日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー
監督、脚本:ソフィア・コッポラ
出演:ケイリー・スピーニー、ジェイコブ・エロルディ、ダグマーラ・ドミンスク、アリ・コーエン、ティム・ポスト、オリヴィア・バレット他
配給:GAGA
原題:PRISCILLA|2023|アメリカ、イタリア|カラー|ビスタ|5.1Chデジタル|113分|PG:12
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