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技能実習生の失踪問題を描いた,
映画「海辺の彼女たち」が公開。
ENTERTAINMENT May 11, 2021
若手監督の登竜門として名高い、サンセバスチャン国際映画祭の新人監督部門にノミネートされるなど、今や国際的な評価を獲得しつつある藤元明緒監督作品「海辺の彼女たち」が公開中。
本作は、近年、様々な社会問題が顕在化した日本における外国人技能実習生をテーマにした物語である。監督を務めたのは、日本に住むミャンマー人家族を描いた初の長編監督作品「僕の帰る場所」(2018)で、東京国際映画祭「アジアの未来」部門2冠を獲得した藤元明緒。彼女らが実際に技能実習生から受け取ったSOSメールをきっかけにして着想され、技能実習生や来日後に失踪した当事者、彼女らを支援しているシェルターなどでの取材を重ね、藤元自らの手により脚本を執筆。その後、前作と同じチームが集結し、オーディションで選ばれた演技未経験者を含む3名のベトナム人女性を主人公に迎えて、青森県、外ヶ浜町で撮影が行われた。現場では、細かく描いた脚本ではなく、撮影するシーンの設定や内容だけ伝えて、俳優自身の言葉や感覚を引き出す藤元ならではの演出方法を採用することで、ドキュメンタリーとフィクションを越境する臨場感溢れる作品に仕上がった。
ベトナムから来た3人の女性たち、アン、ニュー、フォン。彼女たちは日本で技能実習生として3ヶ月間働いていたが、ある夜、過酷な職場からの脱走を図った。ブローカーを頼りに、辿り着いた場所は雪深い港町。不法就労という状況に怯えながらも、故郷にいる家族のため、幸せな未来のために懸命に働き始める……。
本作の背景にある「技能実習制度」とは、開発途上国の“人づくり”に寄与することを目的として、一定期間技能実習生として日本で受け入れ、技術や知識を学び本国の発展に活かすという趣旨で1993年に制度化されたものである。しかし、中には労働者不足を補うために安価な労働力の確保を目的として受け入れる企業も多く、極端な低賃金や違法な長時間労働、パワハラやセクハラなど、近年数多くの問題が明らかになっている。ワーカーの中には、出国時に本来は認められていない手数料をブローカーに払っている者も多く、多額の借金(100万円を超える場合も)によって生活すらままならず、失踪して民間のシェルターに助けを求めたり、残念ながら犯罪に手を染めてしまうケースも多い。この映画はフィクションではあるが、監督による丹念な取材を基にしており、同じようなことが各地で行われているのは想像に容易い。実際にSNSで技能実習について検索すると、本来、現状を把握しながら対策を怠る国や制度を悪用する企業が責められるべきなのに、鬱屈した社会のムードから時に被害者である外国人にヘイトが向けられているのを数多く目にする。しかし、もはや国際競争力を失い、確実に貧富の差が広がっている現代の日本においてこのグロテスクな搾取の構造は他人事ではないばかりか、その人権意識の低さや差別感情は“美しい国、日本”なんてものから大きな乖離を感じさせる。
折しも現在、国会で審議されている入管法改定案によって、在留資格を持たない外国人への人権侵害が問題となっている中、本作で描かれている同じような境遇を持つ主人公たちの覚悟と生き様はフィクションを超えて胸にぐっと迫るものがある。同時に他者へと向ける想像力の大切さを、今一度思い起こさせてくれるだろう。
「海辺の彼女たち」は、ポレポレ東中野他で全国順次公開予定。なお、緊急事態宣言の発令を受けて、劇場によっては、上映スケジュールやガイドラインが変更されている場合もあるので、まずはオフィシャルサイトでご確認を。
ポレポレ東中野他、全国順次公開
脚本・監督・編集:藤元明緒
出演:ホアン・フォン、フィン・トゥエ・アン、クィン・ニュー他
撮影監督:岸建太朗
音響:弥栄裕樹
録音:keefar
フォーカス:小菅雄貴助監督
制作:島田雄史
演出補:香月綾
DIT:田中健太
カラリスト:星子駿光
アソシエイトプロデューサー:キタガワユウキ
プロデューサー:渡邉一孝、ジョシュ・レビィ、ヌエン・ル・ハン
協賛:坂和総合法律事務所、株式会社ビヨンドスタンダード、⻑崎⼤学多⽂化社会学部
協⼒:外ヶ浜町、平舘観光協会、⽇越ともいき⽀援会、⽇本ミャンマーメディア⽂化協会
後援:国際機関⽇本アセアンセンター
共同制作会社:ever rolling films
企画・製作・配給:株式会社E.x.N
宣伝:高田理沙
(2020|⽇本=ベトナム|88分|カラー|5.1ch|1:1.8|ベトナム語、⽇本語|ドラマ|DCP)
©2020 E.x.N K.K./ever rolling films
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