“ソウルの女王”アレサ・フランクリンが、1972年に教会で行ったライブを記録したドキュメンタリー映画｢アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン｣が公開。

本作は、2018年8月16日、惜しくもこの世を去ってしまった不世出のソウルシンガー、アレサ・フランクリンが、1972年1月13日と14日にロサンゼルスのニュー・テンプル・ミッショナリー・バプティスト教会で行なったライブ映像を収めたものである。アレサ・フランクリンが、コーネル・デュプリー(ギター)、チャック・レイニー(ベース)、バーナード・パーディー(ドラム)らに加え、サザン カリフォルニア コミュニティ聖歌隊をバックに従え、自らのルーツであるゴスペルを感動的に歌い上げたこの日のパフォーマンスは、｢AMAZING GRACE｣(1972年)という同名のライブアルバムとしてリリースされ、300万枚以上の大ヒットを記録。今なお、史上最高のゴスペルアルバムとして語り継がれているが、実はこのライブはドキュメンタリー映画としても撮影が行われていたのである。というのも、制作を手掛けたワーナーブラザーズは、その2年前に公開されたウッドストックフェスティバルのライブドキュメンタリー『ウッドストック/愛と平和と音楽の三日間』が、映画の興行収入1700万ドル、アルバムの総売上300万枚という大ヒットを記録したことから、｢アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン｣でも同じような成功を期待していた。

撮影を担当したのは、映画『愛と哀しみの果て』で知られ、アカデミー賞を獲得したシドニー・ポラック。　当初は、アルバムの翌年に公開が予定されていたが、結局今日まで公開されることはなかった。通常、音声は収録後にスタジオで映像と合わせるが、カットの始めと終わりのカチンコもなければ、何ひとつ音と映像をシンクロさせる目印が無かったのだ。ポラックは、読唇術ができる人や特別な編集者を雇ったが、何の成果は出ないまま、その後、映像は40年近く封印されてしまう。そんな中、アレサ・フランクリンがかつて所属したアトランティックレコードのプロデューサーらが中心となり、最新のデジタル技術を使って音と画像を一致させ、生の映像から映画を作れないかとワーナーブラザーズに提案したことをきっかけに話は進み、晴れて今回のスクリーン公開に至ったのである。

予告編では、アレサ・フランクリンの第一声で教会内の雰囲気がガラッと変わるのが映像からも手に取るように伝わってくる。また、奴隷状態に置かれていた南部のアフリカ系アメリカ人の共同体の中で生まれ、キリスト教プロテスタント系の賛美歌として継承されたゴスペルが、黒人たちの間でいかに心の拠り所であったかは、映像の中に映し出される涙を流す多くの人たちからも見てとれる。何より、アレサ・フランクリンの技術を超えたエモーショナルなパワーや、会場を包み込む荘厳かつ圧倒的な一体感は、映画監督のスパイク・リーをして“最高峰のコンサートフィルム”と言わしめるのも頷ける。