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ABOUT OCT, 2024
食卓の向こう側にいる“耕す人々”の世界へと誘う,
農家たちの叡智に迫った長編ドキュメンタリー。
ENTERTAINMENT Nov 4, 2022
農家たちの知恵と工夫、そしてその人生を訪ねた長編ドキュメンタリー「百姓の百の声」が、11月5日(土)よりポレポレ東中野他にて全国公開される。
本作は、生活の根源となる「食」の原点でありながら、多くの人にとってどこか遠いものとして知ろうとしなかった「農」の世界へと誘うものであり、自然と向き合い、作物を熟知する百姓たちの叡智を訪ねた記録である。取材対象者は21歳から93歳までの農業従事者。日本の原風景ともいえる美しい映像と丁寧なインタビューを通して、田んぼで農家の人たちが何と格闘しているのか、ビニールハウスの中で何を考えているのか、農業に携わっていない多くの人が漠然と「風景」としか見ていない営みのコアな姿を鮮やかに浮かび上がらせる。
監督を務めたのは、沖縄の「ひめゆり学徒隊」の生存者たちの証言をもとにした「ひめゆり」(2006年)や、日本人と自然の関係を、食を切り口に見つめた「千年の一滴 だし しょうゆ」など、数々の名作ドキュメンタリーを手掛けてきた柴田昌平。柴田は、学生時代に山村で農家の手伝いをしたことをきっかけに、いつか農業への理解を「点」から「面」として深めていきたいと考えていたが、およそ30年の時を経て今回の映画制作でその夢を結実させた。
柴田によれば、農業に対して近代の日本人が抱いてきたであろう、辛そう、儲からない、肉体労働といった根底に横たわるぬぐいがたい差別意識を感じたことから、現在は放送禁止用語でもある“百姓”という言葉をあえてタイトルに使ったのだという。加えて、メディアが日本の農業を語る際、スマート農業などに代表される機械メーカーの動きに焦点を当てた「6次産業化」による現況の問題解決がメインで、根本的な農家の営みそのものを掘り下げる媒体がなかったこと。そして、農業における「問題」を扱わない場合は、正反対に「理想の天地がここにある」、みたいな外の人間によって祭り上げたユートピアとして扱う、いわば2極化された言論空間に終始していたと語る。それに対し、本作ではそのカウンターとして当事者である百姓の声を丁寧に拾い上げることに注力したのである。
取材は足掛け4年にも及び、柴田は農業関係を得意とする出版社、農文協(農山漁村文化協会)発行の月刊誌「現代農業」のチームと共に全国を飛び回った。ディズニーランド3つ分の面積に、多品種の米を時期をずらしながら稲作を行う茨城県の横田農場や、周辺の農家と協力して稲の肥料に鶏糞を使い、実った米を鶏の餌にする循環型の耕畜連携を行う山口県の秋川牧園などへの長期取材を敢行。あらかじめ用意した結論に導いたり、テーマ主義に陥いることがないよう、時間が許す限り多くの農家と出会い、直接話を聞くことで先述の2極化された言論空間の外側にある農業の本質に迫った。
丹念な取材を重ねる中で柴田は農業について、「問題」以上に「可能性」に満ちた世界であることに気付いたと語っている。予想通りにはいかない自然を相手にしながら、消費者を喜ばせるものを作り、機械や道具を改良を加えて使いこなす百姓を、賢人や哲学者のようであり、クリエイターでもあり、時に科学者やエンジニア、職人にもなる稀有な存在であると敬意を表す。ただ、それを行政も消費者もよく理解していないのではないか? 日本のより良い未来のために農業を生かしきってないのではないかという忸怩たる思いをに駆られたという。
だからこそ、本作が私たちの食卓の向こう側にいる「耕す人々」の世界の入り口となることを望んでいるのだ。自分たちが食べているものを作る農家とは一体どんな人たちで、何を考えているのか。本作で、ぜひその真摯な声に耳を傾けてみてはいかがだろう。
11月5日(土)よりポレポレ東中野他にて全国順次公開
監督:柴田昌平
製作、著作:プロダクション・エイシア
制作協力:農文協(一般社団法人 農山漁村文化協会)
2022年|日本|カラー|130分|DCP|4K撮影
配給:プロダクション・エイシア
www.100sho.info