NEW GENERATION, NEW WAVE
ABOUT MAY, 2025
グラフィティやスケートボードに社会運動まで,
ブラジルのストリートを記録したドキュメント。
ENTERTAINMENT Dec 10, 2021
グラフィティライター、スケーター、デモ参加者など、ブラジルのストリートで様々な表現活動や日常生活を送る人々の姿を記録したドキュメンタリー作品「街は誰のもの?」が、12月11日(土) よりシアター・イメージフォーラムで公開される。
本作は、南米一の大都市サンパウロを中心にブラジル4都市を巡りながら、それぞれの街で出会った社会規範に抗いながら、混沌の波を自身の叡智と行動力で巧みに乗りこなすグラフィテイロ(ブラジルでのグラフィティライターの呼称)やスケーターなど、ストリートを主戦場とする人たちのイリーガルな表現活動から日常生活までを記録したドキュメンタリーである。監督を務めたのは、グラフィックデザインをベースとしながら文化人類学的アプローチで活動する阿部航太で、これが初めての監督作品となる。阿部は、2018年~19年のブラジル滞在を経て、本作の元となる「グラフィテイロス」(2019年)を製作しており、それに約50分の新たな映像を加え、編集し直したのが本作品となる。
ブラジルのグラフィティシーンといえば、本作のインタビュー中にも名前が挙がっていたオズジェミオスが世界的にも有名な映像に映し出されるサンパウロの街には、合法/違法含めて至る所にグラフィティが散見され、現地ではアートとして市民にかなり許容されていることがよく分かる。その理由のひとつが「プロジェット」と呼ばれる、建物のオーナーや行政などがグラフィティライターに仕事として発注したもので、日本であればビルボード広告が並ぶような目立つ場所にも先鋭的なグラフィティアートがあり、街行く人々の目を楽しませている。しかし、作中に登場するグラフィテイロのエニーボに言わせると、「プロジェットはあくまで壁画であり、グラフィティはイリーガルであることが根源かつ前提的条件」であり、その原理主義的なハードコアマインドは、ストリートに生きる矜持や気高さすら感じさせる。とはいえ、当然サンパウロでもグラフィティは違法で、罰金(日本円で11万円程度)が課せられるなど、その行為自体が容認されている訳ではない。
実際にエニーボが空き地でスプレー缶を取り出し、壁に描き始めてすぐに近隣のガソリンスタンドの店員から、「グラフィティが増えると揉め事が起きる原因になるから、すぐに辞めないと警察を呼ぶぞ」と、警告されるシーンも出てくる。しかし、エニーボはグラフィティという行為を、街に対しての自身の存在の証であり、街と関わりたかったと語るように、グラフィティは街をプレイフルに彩るものであり、灰色の風景をより良くするものだという意識が、彼だけではなく多くのグラフィテイロにあるようだ。この視点は、街そのものに帰属意識もなく、行政に期待することなく半ば諦めていた自分のような者にとっては、新鮮な驚きを与えてくれた。
また、同じくグラフィテイロのピアは、自身のグラフィティを完成させた時点で、それは所有するものではなく手放すものだとし、「あなたの作品は街に属するものなのか? それとも(特定の)場所に属するものなのか?」という監督からの質問に対して、「ストリートだ」と断言する。ただ、彼が定義する“ストリート”とは、そこに暮らす住人や街を走る自動車、さらに本来敵対するであろう警察までも含めたすべてを指すものであり、太陽や雨といった自然物も含まれているという。その上で、ストリートとは誰のものでもなく、決して規制できないものだ付け加えた。前述のエニーボも含めてグラフィテイロにとっては、ストリートこそが表現における原点でもあり、サンクチュアリという強い意識が垣間見えた瞬間でもあった。
グラフィテイロだけでなく、スケーターや政治活動に参加する人たちの姿を通して、「街は誰のものなのか?」と、問いかける本作だが、扇情的な演出はもちろん、ナレーションも一切入らない。登場人物が語る言葉と日常を淡々と映し出していくシンプルな構成に、あらかじめ答えを決めつけるような作為的な要素は入り込む隙がない。それでも、グラフィティを迷惑な落書きと忌避し、ストリートスケーターを邪魔な存在として顔をしかめるような鑑賞者にとって、“街の見え方”を問い直すきっかけを与えてくれるだろう。“街はみんなのものであり、自分のものだ”という意識があれば、日本のように反体制のデモ活動を冷笑的に嘲ったり、ホームレスの人が暮らすスペースにアートと称した排除的なオブジェを設置するようなことは看過出来ないはずだ。本作に追加された映像の中には、ブラジルの大統領選挙前日に行われた右派候補者への抗議デモの模様も映し出される。参加者がドラム隊の音に合わせて叫ぶ“路上の民衆が独裁者を倒す!”というシュプレヒコールは、今なお耳の奥底で響き続けている。
12月11日(土)よりシアター・イメージフォーラムにてロードショー
監督/撮影/編集:阿部航太
出演:エニーボ、チアゴ・アルヴィン、オドルス、中川敦夫、ピア
整音:鈴木万里
翻訳協力:ペドロ・モレイラ、谷口康史、都留ドゥヴォー恵美里、ジョアン・ペスタナ、加々美エレーナ
配給/制作/宣伝:Trash Talk Club
日本|2021年|98 分
©KOTA ABE
machidare.com
上映後のアフタートークゲスト
12月11日(土):田中元子(グランドレベル代表取締役)
12月12日(日):荏開津広(DJ/ワーグナープロジェクト音楽監督)
12月18日(土):宮崎大祐(映画監督)
12月19日(日):三宅唱(映画監督)
12月25日(土):宮越里子(グラフィックデザイナー)
12月26日(日):高山明(演出家/アーティスト)
*全回、阿部航太監督が登壇します
*開催時間などは近日発表予定
名古屋:名古屋シネマテーク 2022年1月2日(日)~1月7日(金)
京都:京都みなみ会館 公開期間調整中
大阪:シアターセブン 公開期間調整中