本作は、今から約40年前にニューヨークで生まれた新たなカルチャー、ヒップホップを最初に世に知らしめた作品であり、DJ、ラップ、ブレイキン、グラフィティといったヒップホップの4大エレメントを通して、黎明期ならではの爆発的なエネルギーと当時のリアルなニューヨークの熱気を描いたものである。

舞台は1982年のニューヨーク、サウス ブロンクス。リー・キノネス演じるレイモンドは謎のライター“ZORO”として、深夜の車両基地へ忍び込み、地下鉄にグラフィティを描いていた。“ZORO”のグラフィティは評判を呼んだが、違法行為のためその正体を明かせずにいた。そんな時、レイモンドは新聞記者ヴァージニア(パティ・アスター)と出会い、仕事としてグラフィティを描かないか、と誘われるが……。

本作の監督、脚本を手掛けたチャーリー・エーハンは、ホイットニー美術館のアーティストプログラムに参加するためにニューヨークへ移住すると、そこでスミスプロジェクトといわれる公営住宅地の壁に描かれたグラフィティを目にする。それこそが後に本作で主人公を演じるリー・キノネスによるグラフィティだったのだが、その作品に感銘を受けたチャーリーは自分の映画に出てもらいたいと密かに願っていた。その２人を仲介したのがヒップホップシーンのパイオニアであり、1980年代後半に始まったMTV初のヒップホップ専門番組｢Yo! MTV Raps｣のパーソナリティを務めた、かのファブ・ファイブ・フレディである。タイムズスクエアの展覧会でチャーリーと出会ったファブ・ファイブ・フレディが、｢ラップとグラフィティを融合させた映画を作らないか？｣と提案したことから、映画の制作がスタート。当時のシーンで顔が広かったファブ・ファイブ・フレディは、周囲の仲間達に声を掛け、前述のリー・キノネスをはじめ、サンドラ・ピンク・ファーブラやゼファーといったグラフィティライターにグランドマスター・フラッシュやコールド・クラッシュ・ブラザーズといったオールドスクーラー、さらにグラフィティライター、ラッパー、画家など多彩な顔を持つラメルジーや世界的なブレイキングチーム、ロックステディクルーなど、シーンの真っ只中にいた本物のアーティストたちが参加。こうして、それまで見たこともなかったカルチャーがうねりをあげて拡大していく様子とリアルな空気感をそのまま閉じ込めたようなマスターピースが生まれたのである。