ヒップホップ黎明期を記録した伝説的ドキュメンタリー｢スタイル・ウォーズ｣が、およそ40年の時を経てデジタル修復版となって帰ってきた。

1984年に初めてTV放映された本作は、｢ワイルド・スタイル｣(1983)と並び、ヒップホップカルチャー黎明期の空気をフィルムに閉じ込めた、今なお語り継がれる傑作ドキュメンタリー。日本でもビデオやDVDがリリースされたものの長らく廃盤となっていたが、2015年に当時のプロデューサークらがクラウドファンディングを行い、オリジナルネガから修復したHDリマスター版が完成。製作からおよそ40年の時を経て、遂に日本で劇場初公開される運びとなった。

舞台は1970〜80年代のサウスブロンクス。町中にがれきの山が続き、貧困と犯罪が蔓延するエリアで生まれた、全く新しいカルチャー、ヒップホップ。その中で、DJ、ラップ、ブレイクダンスと並ぶ4大エレメントのひとつ、“グラフィティ”と呼ばれるエアロゾルアートと、それを描くグラフィティライターたちの姿をヴィヴィッドに捉えたのが｢スタイル・ウォーズ｣である。インターネットなど存在しない当時、閉塞感を抱えた少年たちは、地下鉄のホームに集まっては自身のタグを競うように発明し、終電後の車庫に忍び込み、ニューヨーク中を駆ける地下鉄の壁に自らのの証を残していく。作中ではアートではなく生活の質に関わる犯罪であり、単なる“落書き”として糾弾する大人たちの姿も見られ、バンクシーやKAWSといったヴァンダリズムを出自とするアーティストの作品がオークションで何億もの高値が付けられる現在とは隔世の感すらあるが、イリーガルだからこそ溢れ出す荒々しいエネルギーや緊張感はどこか胸に迫るものがある。

プロデューサーを手掛けたのは、｢SUBWAY ART｣(1984)や｢Spraycan ART｣(1986)といった、グラフィティカルチャーのバイブルとも言える写真集を手掛けたヘンリー・シャルファントで、作中には若き日のヘイズ、ゼファー、クラッシュ、レボルトや在りし日のラメルジー、さらには世界的なブレイキングヒップホップグループ、ロック・ステディ・クルーなど錚々たる面子が登場している。新たなカルチャーやムーブメントが自発的に生まれる際の熱気や、周囲の批判を受けながら言葉にならない衝動に突き動かされる少年たちの瑞々しい感性は、今なお観る者に驚きをもたらしてくれるはずだ。