NEW GENERATION, NEW WAVE
ABOUT OCT, 2024
キャパ,ロバート・フランク,荒木経惟……etc.
写真表現に込められた“生”の意味を探る展覧会。
ART Jun 3, 2022
東京都写真美術館では、同館所蔵の36,000点余りの作品から、テーマに即した名作を紹介する展覧会「TOPコレクション メメント・モリと写真-死は何を照らし出すのか」を、6月17日(金)より開催する。
本展のテーマとなった“メメント・モリ”とは、ラテン語で“死を想え”を意味する言葉で、キリスト教世界において、人々の日常がいつも死と隣り合わせであることを示す警句であった。この言葉は、疫病であるペストが猛威を振るった14~17世紀の中世期において、骸骨と人間が踊る様子を描いた「死の像」(ハンス・ホルバイン[子]作)と呼ばれるイメージと結び付き、以降、絵画や音楽など芸術作品の題材として広く使われるようになった。その背景には、伝染病、戦争、飢餓といった困難の多い時代にあって、身近にある死への恐れを抱きながらも、人間はやがて死すべき運命にあることを自覚することによって、生きることに対し、積極的な意味を見出そうとした様子を伺うことができる。一方で、写真もまた、死を想起させるメディアであることは、これまで数多くの写真論の中で度々言及されてきた。
そこで、“メメント・モリ”を主題に、これまで人々がどのように死と向き合いながらも、たくましく生きてきたかを約150点の写真および版画作品を通して探り、世界的なパンデミックや情勢不安など、困難を伴う時代を前向きに生き抜くための想像力を刺激しようと試みるものである。
会場では、1930年代から50年代のフォトジャーナリズム全盛の時代に「LIFE」誌などで活躍したW.ユージン・スミスをはじめ、20世紀を代表する報道写真家、ロバート・キャパ、ピュリッツァー賞を受賞した澤田教一に加え、近代化により変わりゆくパリの街並みを記録したウジェーヌ・アジェや、ホスピスで暮らす人々を見つめたマリオ・ジャコメッリなど、誰もが1度は見たことがあるであろう有名作から知られざる傑作までを紹介する。また、本展は、時間や記憶、人間の想いを1枚のイメージに定着させるという、写真ならではの特性に着目し、多面的な視点から“メメント・モリ”を捉えた全3章立てで構成される。死を身近に感じるひとつの要因でもある、人々の心に潜む孤独に着目した第2章(“メメント・モリと孤独”)では、リー・フリードランダ-、ロバート・フランク、荒木経惟等の作品が、そして、“メメント・モリと幸福”と銘打たれた第3章では、“プラハの詩人”と呼ばれた隻腕の写真家、ヨゼフ・スデックや藤原新也、小島一郎、東松照明などの日本人作家の作品を展観。ある一瞬を切り取り、感光材によってイメージを定着させる写真術は、人間が脆くてうつろいやすい時間の中にあることを示すものであり、中世の人々が「死の像」から生きる意味を見出したように、現代を生きる鑑賞者もまた、写真表現に様々な形で通底する“メメント・モリ”を見出すことで、生きることの意味や目的を改めて見つめることができるかもしれない。
また、本展の序章として先述した版画作品「死の像」も展示される。約500年ほど前に、人間の生きる意味を問いかけ、世界中にセンセーションを巻き起こした貴重な作品が観られるまたとない機会となるだけに、こちらもお見逃しなく。
世界的な混沌を伴う現代に暮らし、それぞれの悩みや生きづらさを抱える人たちにとって、能動的に“生”と向き合うヒントを得られる契機であり、あらゆる人にとって“生と死”の関係について示唆を与えてくれる「TOPコレクション メメント・モリと写真-死は何を照らし出すのか」展に、ぜひ足を運んでみてはいかがだろう。
会期:6月17日(金)~9月25日(日)
会場:東京都写真美術館 2階展示室|東京都目黒区三田 1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
開館時間:10:00~18:00(木、金曜日は 20:00まで、入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜(ただし月曜が祝休日の場合は開館、翌平日休館)
入館料:一般 ¥700、学生 ¥560、中高校生・65歳以上 ¥350
*小学生以下、都内在住・在学の中学生および障害者手帳をお持ちの方とその介護者(2名まで)は無料。
TEL:03-3280-0099
topmuseum.jp/contents/exhibition/index-4278.html
ハンス・ホルバイン(子)、マリオ・ジャコメッリ、ロバート・キャパ、澤田教一、セバスチャン・サルガド、ウォーカー・エヴァンズ、W. ユージン・スミス、リー・フリードランダー、ロバート・フランク、牛腸茂雄、ウィリアム・エグルストン、ダイアン・アーバス、荒木経惟、ウジェーヌ・アジェ、ヨゼフ・スデック、小島一郎、東松照明、藤原新也