1980年代後半から90年代にかけて隆盛したアメリカンオルタナティブロックを象徴するバンド、ダイナソーJr.のドキュメンタリー映画｢ダイナソーJr.／フリークシーン｣が、3月25日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋他にて全国公開される。

マイナー・スレットやブラック・フラッグといった80年代のUSハードコア/パンクに影響を受けた面々によって、1984年にマサチューセッツで結成されたダイナソーJr.。本作は、バンドの結成初期から相次ぐメンバーの脱退を経て、2005年以降再集結した現在に至る歴史の変遷を、オリジナルメンバーであるJ・マスキス、ルー・バーロウ、マーフの3人の関係性にフォーカスしながら、それぞれの証言と貴重な過去の映像を交えて描いたものである。

“音が、巨大すぎた。”という、秀逸なキャッチコピーからも分かるように、J・マスキスのギター音があまりにも巨大だったため、リズム隊の2人は自らの音が聞こえるべくボリュームを上げるしかなかったというダイナソーJr.の凄まじい爆音は、作中で本人が語っているように地元のライブハウスをすべて出禁になるほどであった。しかし、ニルヴァーナやサウンドガーデン、パール・ジャムなど、世界的なグランジムーブメントがシーンを席巻する以前にソニック・ユースに見出された先駆的な存在であったダイナソーJr.のサウンドは、切なく哀愁を帯びたメロディをヒリヒリするような殺伐した轟音で包み込んだ特異なもので、巷に溢れたハードコアバンドとは一線を画していた。また、ニール・ヤングやニック・ケイブ的とも称されるJ・マスキスの無気力かつ気だるいボーカルを含めた、唯一無二ともいえる音楽性は、欧米のアンダーグラウンドシーンで絶大な支持を獲得していく。そのカルト的な人気の高さは、彼らの楽曲が80年代〜2000年代以降も継続的にエイリアンワークショップやトイマシーン、エレメントなど、数多くのスケートビデオのフッテージに使われていたことからもよく分かる。サウンド面以外に目を向けると、ジョゼフ・スザポの写真集｢Almost Grown｣から、タバコを咥えた少女のポートレートをジャケットに採用した4thアルバム｢Green Mind｣はもちろんのこと、トラヴィス・ミラードやマーク・スプスタのイラストを使ったアートワークのセンスもダイナソーJr.の魅力のひとつといえよう。

バンド自体はツアー中の出来事をきっかけに3人の関係性が崩壊し、ルー・バーロウとマーフは脱退。2005年に再集結するものの、J・マスキスとの間にほとんど会話がないことを、ルー・バーロウ自身が雑誌のインタビューでも語っている。かといって険悪なわけでもなく、音楽以外に一切関心がない3人のコミュニケーションは唯一、音楽を通じて図られているのだ。そこにロック的で過剰なストーリー性を見出すことなく、ドラマティックな演出を徹底的に排して愛情溢れる視点でまとめた監督のフィリップ・ロッケンハイムの手腕も光る。なお、共同制作には、ダイナソーJr.およびJ・マスキスが名を連ねており、本作がキャリア35年を超えて初のバンド公認ドキュメンタリーとなる。また、ソニック・ユースのサーストン・ムーアとキムゴードンをはじめ、ブラッグ・フラッグのヘンリー・ロリンズ、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのケヴィン・シールズなど、豪華な出演者も見所のひとつ。