アーティスト、DISKAH(ディスカー)の個展｢THE ELEMENTS OF OUTSIDERS｣が、自由が丘DIGINNER GALLERYにて、2月13日(日)まで開催中。

DISKAHは、1980年代後期から2000年までプロスケーターとして活動した田中大輔のアーティストネーム。90年代後期からストリートアートに没頭し、雑誌やCDジャケットなどへのアートワーク提供をはじめ、自身のスケートチームであるOWN(original world network)でのプロダクト製作などを開始。2002年から本格的なアーティスト活動をスタートすると、同年にDISKAH名義での初個展を開催。その後は、絵画のみならず写真を含めた多彩な表現方法で、国内外での個展やグループ展等への出展に加えて、ファッション、音楽、広告への作品提供など、多方面で活動を行っている。

本展は、2019年6月に今回と同じDIGINNER GALLERY企画のもと開催された｢HEEL(ヒール)｣展から生まれたモンスターシリーズの第3弾にあたるもので、TANG DENG編集で制作されたアートブック｢DISKAH’S MONSTERS｣の発売記念を兼ねたエキシビション。正義(HERO)と悪(HEEL)の矛盾する世界観を、怪獣ごっこに見立て創造されたモンスターたちがコミックを思わせるコマ割り絵画として描かれている。幼少期、兄弟や近所の子供たちとごっこ遊びをする際に決まって悪党役や怪獣役を好んで選んでいたというDISKAH。大人となった今でも世の中にある様々な正義と不義の狭間に疑問を感じ、何が正しくて正しくないかすらももみ消される現代において、正義面した悪党が曖昧な正当性を訴えることに対しての懐疑や、その一方、悪党面したHERO(ヒーロー)がいつしかHEEL(ヒール)へと変わっていく中で、常に挑戦し続けるヒールの儚い姿に、美しさや愛おしさを感じとったDISKAHなりの視点が反映されている。それは、100% Skateborderとしてのアイデンティティを持つDISKAHにとって、これまで煙たがられたり悪者扱いされていたスケーターである自身をHEELの姿に重ね合わせたのかもしれない。また、オリンピックをきっかけにスケーターがアスリートとして脚光を浴びる中で、一気に表と裏がひっくり返る様は、正義と悪という単純な二項対立で判断することの危うさや、その境界部分にあるものへの穏やかな眼差しも感じさせる。

本シリーズの作品は主にステンシルを採用。頭の中である程度用意したイメージに対し、その場で即興的に切り抜かれる型は、時として偶発的なアクシデントを含めて本来のイメージから離れてしまうこともある。だが、スケーターとしてストリートで培ったアドリブ性が表現に動きを加え、より良い結果に行き着くのだ。また、グラフィティの経歴から生まれたノズルを外した缶先で引っ掻き描くような独自のスプレースタイルもDISKAHの特徴といえよう。

本展に掲示された作品群は、これまでのモンスターシリーズを派生させ、ストーリー性を持たせたもので、コマ割りの絵画にも挑戦している。コミックを想起させる独特の擬音、オノマトペには近年DISKAHが興味を抱く株式投資の用語が交えてあり、ストリートアートバブルともいえるアート市場の価値観と、自らが置かれた現状を相対的に揶揄するメッセージが込められている。作品の中で描かれるキャラクターは、見た目や性別、互いの関係性からは善悪を判断することが難しく、鑑賞者の想像力を増幅させる。それと同時に作品から見て取れる、ねじれた社会の隙間に潜む善と悪がシームレスに混在する光景は、DISKAHにとって幼少期に興じた“ごっこ遊び”の延長として捉えているのかもしれない。