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ギャラクシー賞 大賞受賞作を再構成して映画化!
教育現場への政治介入を取材したドキュメント。
ENTERTAINMENT Apr 27, 2022
教科書問題を主題に、この国の“教育と政治”の関係を見つめながら最新の教育事情を記録したドキュメンタリー映画「教育と愛国」が、5月13日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町他にて全国公開される。
本作は、2017年に大阪のMBSで放送されたテレビ番組「映像‘17 教育と愛国~教科書でいま何が起きているのか~」をベースに、新たに追加取材と再構成を加えて映画化したものである。こちらの番組は、放送直後から大きな話題を呼び、放送批評懇談会がその年の優れた番組や団体などに贈るギャラクシー賞のテレビ部門大賞を獲得。以降も、2019年に取材ノートをまとめた書籍が刊行され、2020年には「座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル」でも上映されるなど、大きな注目を集めてきた。
その主題となるのが、教科書検定制度に端を発した教科書問題である。日本ではかつて軍国主義へと流れた戦前の反省から、戦後の教育は政治と常に一線を画してきたが、2006年に第一次安倍政権下で教育基本法が改正され、“愛国心”が戦後初めて条文に盛り込まれると様相は大きく変わり始めていく。“教育改革”や“教育再生”を旗印に、教科書検定制度が目に見えない形で力を増し始めると、「日本軍」慰安婦や沖縄戦を記述する教科書を採択した学校宛てに大量の抗議ハガキが押し寄せるなど、偏った愛国ムードは確実に伝播していった。そして、保守派がいうところの自虐史観を巡り、教育現場に政治が手を入れた状況下で出版社と執筆者の攻防は今現在も続いているのだ。
本作では、歴史の記述をきっかけに倒産に追い込まれた大手教育出版社の元編集者や、保守系の政治家が勧める教科書の執筆者などへのインタビューをはじめ、新しく採用が始まった教科書を使う学校、さらに慰安婦問題など加害の歴史を教える教師や研究を行う大学教授に対しての“反日”バッシングなど、多面的な視点をもとに緻密な取材を行った素材を組み合わせて、教科書とは、教育とはいったい誰のものなのか? という根源的な問いを突きつける。
監督を務めたのは、MBS(毎日放送)で20年以上にわたって教育現場を取材してきた斉加尚代ディレクター。かつて日本維新の会の都道府県総支部、大阪維新の会が推し進める教育改革を批判的に報じるニュース特集を手掛け、当時の大阪市長だった橋下徹氏から猛烈な批判を浴びるなど、常に報道の最前線で戦ってきた人物である。斉加氏によると、10年前に大阪で開催された「教育再生民間タウンミーティング in 大阪 」が、政治主導で教育行政へ影響を及ぼす出発点になったと語る。松井一郎大阪府知事も参加したこのシンポジウムで、壇上の安倍晋三元総理が強調した「(教育に)政治家がタッチしてはいけないものかって、そんなことはないですよ。当たり前じゃないですか」という言葉が犬笛となって、教育基本法条例案の制定は加速。同時に大阪維新の会が“教育再生”の先陣を切る役割を果たしていったのである。
当初は本作の映画化に消極的だった斉加氏だが、「新型コロナウイルス禍で公教育の現場がさらに疲弊し、2020年10月、日本学術会議の新会員任命拒否の問題が勃発した時は人生最大のギアが入った」結果、映画化に向けて一気にギアを上げていく。リリースによると、当時社内にも協力者は少なく、時に孤独に苛まれる日々だったと述懐している。大阪といえば、昨年行われた衆院選で府内15選挙区のすべてに勝利するなど、日本維新の会は圧倒的な人気を誇る。また、MBSも今年の元日に吉村洋文大阪府知事、松井一郎大阪市長、橋下徹元大阪市長の3人が揃ってバラエティ番組に出演するなど、メディア戦略に長けた同会と友好的な関係を築いていることを考えると、本作を製作する難しさは想像に難くない(なお、前述のバラエティ番組はその後「政治的な中立性を欠くのでは?」という指摘を受けたことで社内調査が行われた)。それでも、こうして映画化されたことは報道に携わる人たちの確かな矜持や気概が見て取れるだけでなく、徐々に風向きが変わっていることを感じさせる。
今回、問題視されているのは、子供の教育現場だ。だが、露骨な政治介入は何も教育に限った話ではない。つい先日も、安倍晋三元総理のインタビューを掲載予定だった「週間ダイヤモンド」編集部に対して、朝日新聞の現役記者が安倍氏の代理人として事前に誌面の確認を要求する圧力をかけたことが話題になったばかりである。政治が報道や教育に介入することを認めてしまえば、いずれエンターテイメントやアート、スポーツだってそうならないとは断言はできないだろう。本作を観て今、教育の現場で実際に何が起きているのかを正しく知ること。そして、それを絶えず注視し続けることは、その先にあるあらゆる文化や人々の暮らしを守る上で、重要なヒントを与えてくれるに違いない。
5月13日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋、アップリンク吉祥寺他にてロードショー
監督:斉加尚代
語り:井浦新
プロデューサー:澤田隆三、奥田信幸
撮影:北川哲也
編集:新子博行
録音、照明:小宮かづき
配給、宣伝:きろくびと
製作:映画「教育と愛国」製作委員会
2022年|日本|カラー|DCP|107分
©2022映画「教育と愛国」製作委員会
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