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BOOKMARCのスタッフがセレクトする,
今月のおすすめアートブック3選。
ART Aug 18, 2021
マーク ジェイコブスが手掛けるブックストア、BOOKMARCのニューヨーク店、東京店全面協力のもと、最新のアートブックから同ストアのおすすめをご紹介する連載「THE BOOK REVIEW BY BOOKMARC」。第2回は、見知らぬ土地や旅への憧憬を掻き立てたり、過去のスナップから現代の人種問題へと意識を向けさせる2つの写真集と、人と人との相互関係から生まれる新しいアートの形を探求した、最も“ファニー”なアーティストの集大成ともいえる作品集の3冊がピックアップされた。
アンドレ・アシマンといえば、「君の名前で僕を呼んで」の青い空の下で背向いで寄り添う2人の映画ポスターを思い出す方もいらっしゃるはず。その原作者であるアシマンと写真家、ジャネット・モンゴメリー・バロンの2人の会話から始まった共著プロジェクトの第1弾。まず、ローマの街を占領してみたいという願望があり、そこに共感したというポイントが興味深いです。ローマは世界でも指折りの観光名所で、誰もが写真を撮ります。ただ、バロンはありふれた光景は撮っていません。街をゆっくりと歩いて、目に入った「光」を辿っていき、歴史的モニュメントの一部や石畳の影、突然の通り雨に見舞われたであろう外にあるカフェの水滴だらけのテーブルなど、人々があまり目に留めないような光景を捉えていきます。世界のそれぞれの街に匂いがあるようにローマにもあるはずで、そこには、家の窓から漂ってくる料理の匂いをも映っているようです。アシマンは、小さなノートを携えて目にしたものから思い浮かぶものをランダムにメモに残しながら歩き、あとから自分が残した文字を見返し、俳句のように綴り直しているそうです。柔らかい言葉から小さな物事の情景が浮かびます。写真を撮ることと書くというアプローチは真逆の作業だと2人は言っていますが、共通していることはその「瞬間」があってこそ生まれるということです。いつの日かこの綺麗で小さな本を片手にローマの街の同じ場所を探し、ページをそっと開いて読みたいものです。旅ができない状況下だからこそ、より2人のローマへの熱い想いが追憶となり、またこれからへの希望へと繋がっているように思えてなりません。そしてこの瞬間を大切にするということを。
バークレー・L・ヘンドリックス(1945-2017)は、黒人の肖像画で美術界に大きな影響を与えた最初の画家といっても過言ではありません。長いキャリアの中で、肖像画だけでなく風景画も描き、写真も撮りましたが、やはり有名なのは等身大で描かれたブラックアメリカンの姿です。前回の連載で登場したアンジェラ・デイヴィスのことも描いており、ビザンチン イコン(東ローマ帝国の様式に則した肖像画)をイメージした彼女の強さを表現しています。本書は、絵画ではなく写真をテーマにした彼にとって初めての出版物です。ウォーカー・エヴァンズの元で学んだ経験のあるヘンドリックスは、街へ出て自分の見た世界を常にカメラに収めていたそうです。カメラは絵を描くにあたってのインスピレーションソースを作るスケッチブックであり、捉えた光景は時代の記録としても重要であることに間違いありません。人々や街を観察し、撮りためていたイメージから、時代考察ができるとは当時考えていたのでしょうか。特にレーガン元大統領任期中は筆を置き、写真に集中し、後世は絵画に戻ったようです。絵画だけなく写真に写っている人物もそのほとんどが黒人であることは本人の人種への意識が深く感じ取られ、絵画、写真とその時代によって表現方法を変えていること自体にとても意味があるように思えます。写真を見ていくと、たくさん撮影されて選び抜かれたものであることが伝わり、他の写真をもっと見たくなるような、知りたくなる写真集です。
“ニューヨークで最も有名で無名の芸術家”との異名を持つレイ・ジョンソン。特に1960~70年代を中心に活動し、ネオ・ダダ、フルクサスといった前衛芸術運動にも関わり、当時多くの芸術家からも支持を得ていました。今から数年前にシカゴ美術館にジョンソンの友人から数千もの作品やコレクションが届きました。そのほとんどは詩や写真、コラージュなど様々な手法を使い、クラフト感のある郵便物を文通(correspondence)として残した「メール アート」。本書ではその中から700余りのイラストなど、今までに公開されたことのない作品を一挙に見ることができます。膨大な数ですがひとつずつじっくり見てみると、コラージュで使用した写真、または文字や言葉から送った相手との互いの関係性も隠れているようで、ユーモアをも感じます。また、ジョンソンは50年代から「メール アート」を表現として使い、1995年に亡くなるまでの半世紀近くにわたって作り続け、送っていたことが分かるため、芸術史に少しのスパイスを与えてくれるかもしれません。その後、時代と共に「メール アート」はどのように変化しているのかも気になります。この数十年でSNSが普及し、オンライン上で何でも観られる時代になりましたが、実際に人の手を介した紙ベースのモノをアートとして捉えてきた軌跡を、本書のヴィンテージ感のあるブックデザインも含め手に触れて味わって頂きたいです。また、表紙にある“RAY JOHNSON ARE THE FUNNIEST ARTIST”の意図するところもぜひ発見してみてください。
ニューヨーク発のファッションブランド「マーク ジェイコブス」が手掛ける新感覚ブックストア。 2010年9月にNYのBleecker Streetにオープン。その後2013年10月に東京、原宿にも出店した。アートに関する書籍を中心として取り扱う書店の新規開店が少なくなった今、実際に本を手に取り、書籍の素晴らしさを再認識し、その場で購入できる場所を提供したいという願いが込められている。芸術、写真、ファッションや音楽、詩集や芸術論に至るまで、様々なジャンルの書籍を厳選して販売する。
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