NEW GENERATION, NEW WAVE
ABOUT JAN, 2025
BOOKMARCがおすすめのアートブックを
レコメンドする新連載がスタート。
ART Jun 25, 2021
今月からスタートする新連載「THE BOOK REVIEW BY BOOKMARC」は、BOOKMARCのニューヨーク店、東京店全面協力のもと最新のアートブックから同ストアのおすすめをご紹介する。第1回は、セクシャリティやファッションスタイルなど多様性の萌芽を生んだ70年代のニューヨークを代表する伝説的なショップから、現在の“Black Lives Matter”運動へと続く偉大な活動家まで、アメリカという大国が育んだ歴史や文化の一端を知れる3冊が選書された。
*今回紹介した3冊は、すべてBOOKMARCで取り扱っています。
はじめまして。BOOKMARCの持田と申します。今月から「SWAG HOMMES」のWEBにてブックレビューを連載させていただきます。よろしくお願いします。
BOOKMARCはNYのファッションブランドMARC JACOBSが運営する小さな本屋で、現在NYと東京で2店舗を展開をしています。選書はアート、ファッション、写真、ヴィンテージブック、小説や詩集も扱います。NY店と一緒に厳選して取り揃えております。そして最大の特徴は、月に何回か開催する出版記念イベント(アート展、写真展、サイン会など)です。これまでに、120回以上のイベントを開催してきました。アットホームな店頭で作家さんとファンとのダイレクトな交流の場を作ることを心掛けて、今年で8年目になります。現在、世界的なCOVID-19の感染流行により、イベントのペースは少し落としておりますが、これからも色々な催しを予定しております。是非お立ち寄りください。
70~80年代を象徴する“It”ブランド、FIORUCCI(フィオルッチ)。アンディ・ウォーホルから若き日のマドンナまでもが関わったことでも有名。本書はデザイナーである、エリオ・フィオルッチの世界観を、往年の仲間達が語る評伝的ヴィジュアルブック「Dear Elio」。エキセントリックなストアディスプレイ、キャンペーンの図版も見応えありますが、ケニー・シャーフの個展、ウォーホル&(トルーマン・)カポーティのサイン会、キース・へリングのアクション・ペインティング等、超個性的なイベントも網羅されていてこちらも白眉です。ブティックにアートとディスコ カルチャーを持ち込んだ最初のブランドと言っちゃっていいでしょう。FIORUCCIは、1968年のミラノ店に始まり、1976年にオープンしたNY店は、ブランドを象徴する伝説的な店舗になる。店内にはニューススタンドもあって、雑誌や本、そしてイタリアンローストのコーヒー、さらには自転車まで扱っていた。“昼間のSTUDIO 54(編集部注:パラダイス・ガラージと並ぶ70年代の伝説的なクラブ)”の異名で色々な有名人の往来があったと言います。若き日のマーク・ジェイコブスもよく通ったとのこと。86年に経営陣の失策によるフランチャイズ問題で閉店するまでは、NY文化の発信源として、常に何かが起こる場所だった。
さて、NY繋がりで80‘sから現代に飛びますが、デイヴィッド・バーン×スパイク・リーというベリーNYな2人による舞台映画「American Utopia」も無事に日本公開となりました。もともとはバーンが2018年に発表した同名アルバム。それがワールドツアー後の2019年秋にブロードウェイで舞台化され大評判となり、そしてスパイク・リーの手により映画化が実現したという作品。本書は、同じくベリーNYな画家、マリア・カルマンによって描かれたこの舞台のイラストブック。この作品群は舞台の緞帳(どんちょう)や天井にも配されました。演奏されたトーキングヘッズ/デイヴィッド・バーンの楽曲の歌詞とバーンが語るセリフが温かみのあるカルマンのイラストと共に構成されていて、イラストレイテッド版のバーン詩集と言ってもよいかもしれない。このショーの佳境はやっぱり「Hell You Talmbout」でしょう。激しいパーカッションに乗せてヘイトクライムや警官に殺された黒人の名前を唱える、というプロテストソングを採用することでBLMへの深い賛同を表している。この稀代のアーティストの詩的音楽的感性に満ちた脳みそを覗くような舞台演出を経て、バーンの「偏見を越えて相互理解できる」ことへの期待が、演者と観客で深く共有するところで結ばれている。
とにかく、この数年間は人種差別/移民排斥ムードとコロナ禍という2重苦が、アメリカの良識を混乱に陥れた。その過程でBLMという運動が大きくなり世界中に支持を拡げた。そんなBLMのルーツにもあたる良書をひとつ。本書は活動家で哲学者、そして大学教授でもあるアンジェラ・デイヴィスの闘争の軌跡をエッセイ/インタビュー、そして多数の当時の誌面やポスターで俯瞰するヴィジュアルブック。彼女はドイツ留学中にフランクフルト学派の薫陶を受けてマルクス主義に関心を持ち、帰国後マルクス主義フェミニストとして共産党に入党、フェミニズム運動、ブラックパンサー党、反ベトナム戦争運動にも積極的に関わるが、そのせいで大学の教職を追われ、さらには冤罪として殺人と脱獄の共謀の嫌疑をかけられて収監までされてしまう。この事件は当時ジョン・レノンやオノ・ヨーコ等の著名人も参加した抗議運動まで発展し、1年後ようやく無罪放免となり釈放された。現在はUCLAに復職し教鞭を取っている。本書に掲載されている図版やポスターは、実はすべて1人の黒人女性アーキビスト(編集部注:公文書など、永久保存価値のある資料や情報の収集、分類、保管にあたるプロフェッショナル)のリスベット・テレフセンの私物というのだからすごい。つい先日まで、カリフォルニアオークランド博物館にて展示もされていました。アンジェラの著作の数少ない日本翻訳として、この春に「自由とはたゆみなき闘い」(河出書房新社)も刊行されているので、こちらも合わせておすすめしたい。
ニューヨーク発のファッションブランド「マーク ジェイコブス」が手掛ける新感覚ブックストア。 2010年9月にNYのBleecker Streetにオープン。その後2013年10月に東京、原宿にも出店した。アートに関する書籍を中心として取り扱う書店の新規開店が少なくなった今、実際に本を手に取り、書籍の素晴らしさを再認識し、その場で購入できる場所を提供したいという願いが込められている。芸術、写真、ファッションや音楽、詩集や芸術論に至るまで、様々なジャンルの書籍を厳選して販売する。
東京都渋谷区神宮前4-26-14
TEL 03-5412-0351
営業時間 12:00~19:30
不定休
www.marcjacobs.jp/bookmarc