NEW GENERATION, NEW WAVE
ABOUT SEP, 2024
“ジャパニーズ・ホラー”の巨匠にして、世界的な評価を確立する映画監督、黒沢清の新作「Chime」が、墨田区菊川にあるミニシアター、Stranger他にて全国劇場公開中。
本作は、DVT(デジタル・ビデオ・トレーディング)プラットフォーム「Roadstead」オリジナル作品第1弾として、「自由に作品を制作してほしい」というオーダーを受けた黒沢清監督が、一から作り上げたオリジナル中編作品となる。DVTとは、映像作品を一過性のコンテンツではなく、コレクションする価値ある資産とした扱う新たなメディア配信プラットフォーム。これまでのような数量制限のない映像配信とは異なり、オンライン上に存在する映像作品をフィジカルなDVDと同じように一意で固有なものとして扱い、ユーザーは作品を視聴するだけでなく、コレクションして第三者とトレードしたり、交換したり、プレゼントすることができる。出品される映像はすべてにシリアルナンバーが付与されており、購入者だけが観られるセキュリティが施された上でトレードが可能。購入時だけでなく、ユーザー同士のトレードの売り上げからもクリエイターに権利料が還元される仕組みとなっている。ユーザーは単なる消費者ではなく、クリエイターの活動を経済面から直接的に支援できるとあって、今後の展開や取り組みが大いに期待されている。
あらためて、作品の説明に戻ろう。黒沢監督が「一度でいいから、思いつくままに恐ろしいシーンが続けざまに並んでいる映画を作りたかった」と後述しているように、日常の小さな異変から、次第に世界が崩壊していく恐怖の物語は、DVTでの成功を経て、全国での劇場公開が決定。また、今年の第74回ベルリン国際映画祭ベルリナーレ・スペシャル部門に出品されると、上映終了時に拍手喝采を浴びるなど、大きな話題を呼んだ。
物語の舞台はありふれた料理教室。そこで講師として働いている松岡卓司(吉岡睦雄)が主人公だ。ある日、レッスン中に生徒の1人、田代一郎が「チャイムのような音で、誰かがメッセージを送ってきている」と、不思議なことを言い出す。事務員の間でも、田代は少し変わっていると言われているが、松岡は気にすることなく接していた。しかし別の日の教室で、田代が今度は「僕の脳の半分は入れ替えられて、機械なんです」と言い出し、それを証明するために驚くべき行動に出る。田代の一件後のある日、松岡は若い女性の生徒、菱田明美を教えていた。淡々とレッスンを続ける松岡だったが、丸鶏が気持ち悪いと文句を言う明美に、彼は……松岡の身にいったい何が起きたのか。 料理教室で、松岡の自宅で、ありふれた日常に異様な恐怖がうごめき始めたのだった。
奇妙でいびつな人間模様を描いた秀逸なプロット、そして、黒沢作品特有の世界との違和を映し出す撮影や渡邊琢磨による劇伴、そして巧みな光の演出 。黒沢清の考える“恐怖”を高い純度で詰め込んだ「Chime」を、ぜひお見逃しなく。
Stranger他にて全国劇場公開中
監督、脚本:黒沢清
出演:吉岡睦雄、小日向星一、天野はな、安井順平、関幸治、ぎぃ子、川添野愛、石毛宏樹、田畑智子、渡辺いっけい
音楽:渡邊琢磨
製作:Roadstead
企画:Sunborn
制作プロダクション:C&I エンタテインメント
配給:Stranger
©Roadstead
roadstead.io/chime/