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ABOUT JAN, 2025
作家/編集者/写真家として活躍する都築響一と、下町レトロに首っ丈の会がゲストキュレーターを務める展覧会「Museum of Mom’s Art ニッポン国おかんアート村」が、東京都渋谷公園通りギャラリーにて、4月10日(日)まで開催中。
“もっとも過激なアーティスト、それはきみのおかんだった!”というキャッチコピーが付けられた本展では、2000年代初頭から「おかんアート」と呼ばれ、人知れず注目されてきた市井の“母”たちが作る手芸作品の数々、計1,000点以上を紹介。あわせて、「おかん宇宙のはぐれ星」と題した都築響一特選の3名の作家による特別展示も同時開催される。本来、おかんとは関西方面の方言で母親を指す愛称ではあるが、ここではこの属性に捉われず、広く性別や立場を超えて「おかん」の感覚を持った多様な作り手が紹介され、様々な角度から「おかんアート」の魅力に触れることで、専門的な美術教育とは関わらない作り手による創作の場や時間のあり方、その表現と魅力に迫るものである。
会場では、ゲストキュレーターの都築響一が長年のリサーチで出会ってきたおかんアートに加え、おかんアーティストの写真やエピソードが壁面に飾られ、会場全体がひとつの大きな雑誌を思わせる構成となっており、観る者は作り手のパーソナリティに思いを馳せることができる。
また、アート史の変遷や作品を体系づけて捉える必要のない個々の独創性の発露は、雑誌のページをめくるように好きな作品や興味を惹かれた作家など、鑑賞者の気の向くまま自由に巡ることのできる楽しさもある。そして、本展に通底するのが、「おかんアート」に対しての穏やかな眼差しとフラットな距離感だ。極めて技巧に優れた作品があるかと思いきや、「これは一体何だろう?」という不思議な感覚を覚えるようなストレンジな迷品まで、千差万別ある中で過度な演出や脚色を取り除くことで、鑑賞者も余計な先入観抜きに作品と向き合える。もちろん、無名な作品に光を当てるような大上段に構えた意識や、あえて面白がるような選民的な思想も一切見当たらず、高尚なアートとして全てを手放しで称賛するような美辞麗句も存在しない。
視点の面白さはもちろんだが、「あなたも私も見逃していたけど、身近にもこんなに面白いアートがあるんだよ」という作為のない純粋な提示だからこそ、誰もが心惹かれるのである。それは、「おかんアート」と呼ばれるものについて解釈を試みた都築響一の素晴らしいステイトメントからにも現れているので、以下に記す。
おかんの辞書に断捨離はない。荷物のヒモは丸めて引き出しにしまっておく。輪ゴムは水道の蛇口にかけておく。デパートの紙袋は冷蔵庫の脇に差しておく。とりあえず。そしてある日、おかんにひらめきの瞬間が訪れる――アレをああやったら、かわいいのできるやん!こうしておかんアートは生まれた(たぶん)。 おかんアートとは、文字どおり「おかんがつくるアート」のこと。メインストリームのファインアートから離れた「極北」で息づくのがアールブリュット/アウトサイダーアートだとすれば、正反対の「極南」で優しく育まれているアートフォーム、それがおかんアートだ。見る人を困惑させ、おしゃれ空間を一発で破壊し、勢いと熱さだけは溢れるほどあり、プロのアート作品にはもちろん、今や「インサイダー」になりつつあるアウトサイダーアートやアールブリュットにすら存在しない、おかん独自の破壊力。単一の価値観に収まりきらないことが現代美術の特質であるならば、おかんアートはもっとも無害に見えて、最も危険なアートフォームなのかもしれない。
また、本展の関連イベントとして開催された、都築響一と山下香(下町レトロに首っ丈の会)によるトーク動画が、東京都渋谷公園通りギャラリーのYouTubeチャンネルで公開されている他、同ギャラリーのInstagramアカウント(@skdgallery_tokyo)では、3月4日(金)18時より都築響一によるギャラリートークが生配信されるので、そちらもぜひお見逃しなく。
会期:開催中(4月10日まで)
会場:東京都渋谷公園通りギャラリー
時間:11:00~19:00
休館日:月曜日(ただし3月21日は開館)、3月22日(火)
入場料:無料
キュレーター:都築響一+下町レトロに首っ丈の会
出展作家:伊藤由紀、奥眞知子、尾本節子、木越貞子、久保山みどり、系谷美千代、
香坂司登美、後藤知恵子、佐藤イヱ、高桒義一、新居光子、西村みどり、藤井孝子、
藤岡純子、松田多瑞子、森敏子、山田二三江 他、各地の皆さま
inclusion-art.jp/archive/exhibition/2022/20220122-119.html