NEW GENERATION, NEW WAVE
ABOUT OCT, 2024
金沢21世紀美術館では、現代アーティストの作品を通して日本におけるフェミニズム表現の一端を紹介する展覧会「フェミニズムズ/FEMINISMS」を開催中。
本展は、そのタイトルが指し示すように複数形のフェミニズムをテーマとし、1990年代以降の日本の様々な美術表現を通じて、解釈の多様性を展観するものである。また、本来女性のためだったフェミニズムという概念は、性差はもちろん、世代や時代、所属する国家や民族、それぞれの環境や価値観によってその考え方や捉え方は変容し、社会に違和感を持つあらゆる人たちの力になることを実感したことから、現在進行形のフェミニズムの思考に着目し、その捉え方や解釈の多様性を同時代の多彩な美術表現から紐解く試みでもある。
本展を構成するのは、日本を主な活動拠点とし、鋭い観察眼と豊かな感性で1990年代以降のアートシーンを牽引してきた、青木千絵、碓井ゆい、遠藤麻衣、百瀬文、風間サチコ、木村了子、西山美なコ、森栄喜、ユゥキユキという9名の現代アーティスト。絵画、彫刻、版画、写真、映像、インスタレーションなど、その表現方法は多岐に渡るが、身体と内面の関係性や性差、性愛の本質を問う作品、さらに個とそれを取り囲む社会に介在するジェンダーやアイデンティティの在り方を見つめ直す作品などを通じて、鑑賞者を既成概念の解放や、自由な心と身体への回帰に誘う。
19世紀から20世紀初頭にアメリカやイギリスで巻き起こった女性の参政権獲得運動に端を発したフェミニズムは、その後“ウーマン・リブ”と呼ばれる第2派を経て、1990年代以降は欧米の若い女性たちを中心に、“ライオット ガール”などのポップカルチャーと結びつき、メディアを通じて広がりをみせた。しかし、日本では女性たちからのマニフェストという以上に、“ガール・ムーブメント”としてメディアに利用され、女性たちを消費していった側面があった。しかし、それから20年以上の時を経て、男性らしさや女性らしさといった言葉に象徴される従来のジェンダー規範や、大学入試の合否や会社での昇進、賃金格差に象徴される男女間での非対称性など、個人と社会の狭間に行き場のない違和感を抱えながら、異議を唱える小さな声はインターネットなどを介して繋がり、広く伝播して社会が変わろうとしていくのを感じたのだという。その中で、複数形のフェミニズムが発するメッセージというのは、多様な考え方を認め合うことこそが社会にとって重要で必要だという視点だ。
その上で、現代の身体や性に対して柔軟で多様かつ個別的に捉えた本展の作品群を通して、結婚や家族といった制度や既存の社会規範に立脚したこれまでの価値観に囚われることのない、新しい解釈の可能性を次世代に繋ぐことを同時に目指している。奇しくも1990年代は、冷笑や逆張りのムードがネットから表出し、醜悪な形で醸成されたことが、現代に根強く蔓延るミソジニーや、近年の“ツイフェミ”(Twitter上でフェミニズム的な言動を展開をする人を指すネットスラング)などの蔑称に象徴されるフェミニズム/フェミニストへの忌避に繋がったことは間違いない。本展が試みる次世代に繋ぐ未来への視点とは、身体的な差異を含めて互いの個性を認め合い、それぞれが共存できる社会への静かで暖かい眼差しがその背景にあり、前述の90年代以降の前時代的なシニカルですねたムードを刷新し、新しい時代へと変えてくれる期待も込められている。これまでに先人たちが築き上げたフェミニズムの歴史を礎に、“個が共存できる未来への橋渡し”を願って企画された本展に、ぜひ足を運んでみてはいかがだろう。
会期:開催中(2022年3月13日まで)
会場:金沢21世紀美術館 展示室11、12、14
石川県金沢市広坂1-2-1
開館時間:10:00~18:00(金、土曜日は20:00まで) *観覧券販売は閉場の30分前まで
休館日:月曜日(ただし2022年1月3日、1月10日は開場)、 12月29日(水)~2022年1月1日(土・祝)、1月4日(火)、1月11日(火)
料金:一般 ¥1,200(¥1,000)/大学生 ¥800(¥600) 小中高生 ¥400(¥300)/65歳以上の方 ¥1,000 *( )内は団体料金(20名以上)およびウェブチケット料金
日時指定ウェブチケット購入方法:金沢21世紀美術館ウェブサイトより購入可能
*本展観覧券は同時開催中の「ぎこちない会話への対応策̶第三波フェミニズムの視点で」(2022年3月13日まで)との共通観覧券です。
*入場当日に限り、「コレクション展2 BLUE」(対象期間:2022年3月13日まで)にもご入場いただけます。
TEL 076-220-2800
www.kanazawa21.jp