“CASS × PRADA” INTERVIEW WITH CASSIUS HIRST

Interview&Text_SWAG H.

"CASS × PRADA”
INTERVIEW WITH
CASSIUS HIRST

プラダとの協業へと導いた父,ダミアン・ハーストと
創作について,カシアス・ハーストにインタビュー。

FASHION May 17, 2022

Interview&Text_SWAG H.

｢PRADA(プラダ)｣は、新たなカプセルコレクション｢Cass × Prada｣を発表した。1997年に初登場したアイコニックなスニーカー“プラダアメリカズカップ”に、新たな解釈を加えてリメイクした限定コレクションで、全4型計22色ものカラーバリエーションで展開される。

Photography_Prudence Cuming Associates Ltd. © Cassius Hirst

カスタマイズを手掛けたのは、弱冠20歳のアップカミングなアーティスト、カシアス・ハースト。世界で最も有名な現代美術家のひとり、ダミアン・ハーストを父に持ち、故ヴァージル・アブローによって、その才能を見出されたまさにサラブレッドともいえる逸材だ。真っ白いスニーカーをキャンバスに見立て、スプレーを駆使して描かれる彼の作品は、エイサップ・ロッキーをはじめ、プレイボーイ・カルティ、リアーナなど、数多のスタイルアイコンから支持を集めるなど、大きな注目を集めている。今回、ロンドンを拠点に活動するカシアス・ハーストにメールインタビューを実施。本コレクションの制作背景や、｢プラダ｣とのチームアップについて伺った。

SWAG H.(以下 S)　今回のコラボレーションが実現するまでの経緯について聞かせて下さい。

Cassius Hirst(以下 C)　これまで私は、(ナイキの)“エアフォース１”にペイントを施して写真を撮り、それらの写真をベースに複雑なビニールステンシルを作って抽象的なデザインに仕上げていました。最初にスニーカー本体の1部をマスキングしてから、スニーカー全体をステンシルに包んだのです。それはとても大変な作業でした。同時にその作業を常に写真にも収めていました。ある時、父(ダミアン・ハースト)にも写真を1枚を送ると、彼はそれをミウッチャ（・プラダ）さんに送ったのです。ミウッチャさんは、｢これはすごい！ぜひ何かを一緒にやりましょう｣と言ってくれたので、私はイタリアへと向かい｢プラダ｣のシューズ工場を訪れて、そこで様々な靴を選びました。それが、今から3年前くらいのことだと思います。

“プラダアメリカズカップ”スニーカーは、他のスニーカーとは全く違います。そのため、はたして自分に何ができるだろうかと、しばらく迷っていたんです。例えば、ひとつの靴の中に別の靴を入れて両方の本質を持った新しい靴を作るなど、立体的なデザインも検討してみました。そのデザインは｢プラダ｣らしさが強かったのですが、やはりどこかトゥーマッチだと思い、色を塗ることに落ち着きました。試行錯誤を重ねて44足分の靴に色を塗った後、そこから絞り込んだ22足を工場と協働して実際の製品として再現することになったのです。

S　今回のプロダクトを製作する上で、｢プラダ｣からはどのようなリクエストがありましたか？また、インスピレーションソースや製作プロセスは？

C　リクエストは特にありませんが、プロセスはとても素晴らしいものでした。制作期間が長くて進捗には時間はかかりましたが、とても楽しかったです。“アメリカズカップ”スニーカーの構造に着目すると、色だけでも実に可能性に富んでいることがよく分かりました。それは色が持つシンプルな力です。また、私が利用するすべてのテクニックは靴自体に由来したものでもあります。

色は様々なスタイルを通して変化していくことで範囲を広げていき、そのすべてが互いに繋がります。すべてはスプレーペイントから始まりました。子供の頃は、スケートデッキをスプレーペイントで飾るのにハマったこともありましたね。スピーディに完成するから大好きだったんです。それに、若い頃はハンドペイントだとすごく難しくて、いつもイライラしました。とても遅く感じたんですね。スプレーペイントは、対象物を懐中電灯で照らすようなものです。まるでライトを使って色を塗っている感じでしょうか。ですから、今回のコレクションでもスプレーを使っています。テクスチャーのある白い部分も、スプレーペイントを吹き付けた紙を靴に押し付けて模様を施しています。

テクスチャーの表現については色々と試しました。テクスチャー自体は成形ペーストを、白いペイントを施すのと同じように靴に押し付ける方法で作ります。靴の表面を“引き出して”立体的なフォルムに変えてみるというアイデアです。唯一スプレーを使わずにテクスチャーを表現したのは“ATT4CK”シリーズです。

今回、初めて私の作品が量産されることになりましたが、バランスを見極めることがポイントでした。私自身、ハンドメイドが大好きなので、今回の製品がとてもインダストリアルっぽくて堅い雰囲気のものになるのでは？と心配していましたが、｢プラダ｣の工場と一緒に作業を始めてみるとその心配は杞憂に終わりました。工場でも実際に自分と同じように手作業で色を塗っていることが分かって、自分と職人との間に対話もあったからです。それに最も感動したのは｢プラダ｣が惜しみなく時間を費やしてくれたこと、アイデアやチャレンジへのオープンなマインドです。そして、何よりそれはとても真剣なものだったのです。

S　今回のプロダクトネームは音楽制作における音量変化のパラメータから名付けられたそうですが、その理由や意図は？また、ご自身もDTMなどで音楽制作をされるのであれば、どのような曲を作っているのでしょうか？

C　“ATT4CK(アタック)”、“D3CAY(ディケイ)”、“SUST4IN(サステイン)”、“REL3ASE(リリース)”という4種類のスニーカーがありますが、すべてが互いに繋がっていて、それでいて矛盾することもあります。ドラムマシンやシンセサイザーを使って自分でも作曲を行うのですが、電子音楽全般にはアタック、ディケイ、サステイン、リリース、つまりADSRという用語があります。アタックは最大の音量まで立ち上がる時間、ディケイはアタックのレベルから減衰してサステインのレベルになるまでの時間、サステインはディケイの減衰を経てから保持する音量、リリースはキーを放してから鳴り続ける時間のことです。そして、シンセサイザーの世界と重ね合わせて、自分なりにADSRを靴の美学として捉えることができました。例えば、“SUST4IN”はシリーズの中でも“保持されている”点を表しています。“ATT4CK”はよりアグレッシブで、ネオンカラーにはかなりの迫力があります。“D3CAYは、靴自体が履き込まれて老朽化されたようにも見えます。そして“REL3ASE”では、色が付着を諦めて次第に褪せていくプロセスを表現しています。４つとも連続するシリーズとして考案されたもので、それぞれが相乗効果をうまく発揮します。

インタビューの回答にはなかったものの、本コレクションのキャンペーンムービーのサウンドトラックには、カシアス・ハースト自らが制作したトラックが使用されているので併せてチェックしてみてはいかがだろうか。｢Cass × Prada｣｣コレクションは、5月17日(火)よりプラダ公式オンラインストアにて、5月20日(金)よりプラダ MIYASHITA PARK店およびプラダ阪急メンズ大阪2F店にて、全世界3,000足限定で販売開始される。