NEW GENERATION, NEW WAVE
ABOUT OCT, 2024
雑誌編集者やレーベルオーナーが作り上げた,
肩肘の張らない“まち”のヴィーガン定食屋。
LIFE STYLE Nov 29, 2021
“ミートフリーマンデー(Meat Free Monday)”とは、ポール・マッカートニーとステラ・マッカートニーが提唱する地球環境保護を目的としたキャンペーン。週に1度、月曜日だけでも肉を食べない生活を皆が意識することで、畜産飼育における穀物需要の増加とそれに伴う森林破壊や砂漠化、さらには温暖化の要因でもあるメタンガスの発生を少しでも防ごうという啓蒙活動でもある。SWAG H.では、このメッセージに共鳴し、毎週月曜日にベジタリアニズムやヴィーガニズムをはじめとする関連ニュースをお届けする。第29回は、日本でのヴィーガンレストランの草分けともいえる渋谷の名店「なぎ食堂」をピックアップ。
渋谷の端にありながら、個性的なショップや気の効いた飲食店などが点在する鶯谷町に店舗を構える「なぎ食堂」は、2007年12月のオープン。もともと、音楽系出版社の同僚として働いていた小田晶房さんと北口大介さんの2人が立ち上げたお店である。音楽専門誌等でライターとして活躍しながら、SAKEROCKや二階堂和美らの初期作品をリリースしたインディペンデントレーベル「compass tone/compare notes」を運営する小田さんは、当初、飲食店に限らず“何かが起こるような場を持ちたい”という構想を思い描いていた。加えて当時ヴィーガン料理に関心を持って取り組んでいたことから、“店内で音が出せて料理も提供できるようなお店”というコンセプトでスタートしたという。その後、紆余曲折を経て店内で音を鳴らすことは断念し、現在はヴィーガン専門店として菜食主義やノンベジに関わらず、幅広い層から厚い支持を集めるまでとなった。なお、料理専業に落ち着いた経緯や、その変遷については、小田さんの著書「渋谷のすみっこでベジ食堂」(駒草出版)に詳しく書かれているそうなので、ぜひご一読を。
ヴィーガン専門店とはいえ、高尚な理念や取っ付き難さとは無縁の温かな雰囲気も「なぎ食堂」の魅力のひとつ。入り口の看板には、“肉や魚を使っていないだけの、普通の食堂です!”と謳っているように、和食や洋食はもちろん、イタリアンや中華、エスニックなど、世界各地の料理を型にとらわれずヴィーガン仕様にアレンジして提供する。代表の北口さんも「ヴィーガンというと堅苦しさを感じる人も多いと思いますが、当店はヴィーガンの方もそうでない方も、リラックスして食事を楽しんでいただきたい」と語るように、ヘルシーかつ食べ応えがあり、ご飯やお酒が進むしっかりとした味付けは、食の嗜好や禁忌を気にせず誰でも平等に楽しむことができる。なお、コロナ禍以前は、デリから好みの料理を組み合わせるスタイルのメニューも提供していたが、現在は感染予防の観点からランチ、ディナー共に定食メニューを中心に展開。主菜に加え、汁物や副菜を含めてバランスを考慮した栄養価の高い組み合わせは、疲れた身体と心を解きほぐし、リセットしてくれる。“街の食堂”然としたカジュアルな佇まいとアットホームな空気感を含めて、ふと立ち寄りたくなるような安心感をもたらす。
定食メニュー以外にも、名物でもあるソイミートの唐揚げや、そら豆を使った中東風コロッケ、ファラフェル、これからの季節に身体を芯まで温めてくれる粕汁などがアラカルトで楽しめる。他にも、京都にある「オオヤコーヒ焙煎所」のデカフェ豆を使用したコーヒーをはじめとする各種ドリンク類に加え、りんごキャラメルケーキやチョコレートケーキといったヴィーガン仕様のスイーツを用意。ほとんどの定食メニューは、お弁当としてテイクアウト可能なので、職場のランチタイムや自宅で本格的なヴィーガン料理を手軽に楽しむことができる。
「なぎ食堂」の店内を見渡すと、その一角には様々なZINEやリトルプレス、CDなどの音楽ソフトなどが販売されており、“何かが生まれる場所”にしたいというオープン当時の想いが、今なお息衝いていることを伝えてくれる。また、お店の店主を務める小田さんは、2020年から活動の拠点を京都に移しているが、現地でヴィーガンの料理教室や、「リソグラフ」と呼ばれるシルクスクリーン印刷機のスタジオを運営するなど、ものづくりの楽しさを広く伝え、創作の萌芽を見守るような活動を行っている。ヴィーガンそのものの認知度も低かった時代にオープンした「なぎ食堂」は、今年で14年目を迎えるが、常に新しいカルチャーや才能をサポートする気持ちと、“楽しむための場所は自分で作り出す”というDIY精神や骨太のマインドは、外から見ていても勇気付けられることも多い。堅苦しさをまるで感じないリラックスした雰囲気と敷居の低さを含めて、街の食堂としての「なぎ食堂」は、未だに誤った印象で語られる事の多いヴィーガンのイメージを軽やかに印新してくれるに違いない。
東京都渋谷区鶯谷町15-10
営業時間:12:00〜16:00(15:00ラストオーダー)/18:00〜23:00(22:00ラストオーダー)
定休日:不定休
TEL 03-3461-3280
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