NEW GENERATION, NEW WAVE
ABOUT APR, 2025
トランスジェンダーの子供の葛藤と,寄り添う
周囲の人々を描いた話題作「ミツバチと私」。
ENTERTAINMENT Dec 19, 2023
本作で主演を務めたソフィア・オテロが、第73回ベルリン国際映画祭において、当時9歳という史上最年少で最優秀主演俳優賞を受賞したことでも話題になった映画「ミツバチと私」が、2024年1月5日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷他にて全国順次公開される。
監督を務めたのは、数々の短編映画を手掛け「Chords(英題)」(2022)では、第75回カンヌ国際映画祭の監督週間で上映された実績を持つスペイン人監督、エスティバリス・ウレソラ・ソラグレン。自身の性を巡るアイデンティティに悩む、8歳の子供の成長を描いた本作を制作する上で、「家族との関係が、自分探しの旅にどう影響するのかを探りたかった」と語るように、スペインのトランスジェンダーの子を持つ家族会「Naizen」を通じ、20世帯を対象にリサーチを重ね、脚本づくりやキャスティングなど全面的に指導を受けたという。結果、トランスジェンダーというテーマだけでなく、自身の性別に思い悩む子供に対して、周囲はどう接したらよいのか葛藤する母親や祖母ら3世代の視点を重層的に盛り込み、それぞれの考え方で人生を生き抜く姿を丁寧に描き上げた。スペイン、バスク地方の緑豊かな美しい景色と共に、演出的なライティングに頼ることなく、自然光のみで撮影した映像美にも注目したい。
ストーリーは、ある家族が夏のバカンスでフランスからスペインにやってきたことから始まる。母、アネの子どものココ(バスク地方では“坊や(坊主)”を意味する呼称)は、男性的な名前“アイトール”と呼ばれることに抵抗感を示すなど、自身の性を巡って周囲からの扱いに困惑し、悩み、心を閉ざしていた。それでも叔母が営む養蜂場でミツバチの生態を知ったココは、蜂やバスク地方の豊かな自然に触れることで徐々に心をほどいていく。ある日、自分の信仰を貫いた聖ルチアのことを知り、ココもそのように生きたいという思いが強くなる。そして、“女の子でいたい”という想いを胸にドレスを着ようとするが、バカンス先に遅れてやってきた保守的な父親に反対されてしまい、両親を巻き込んだ喧嘩が起こってしまう。その様子を見て傷ついたアイトールは、祭りの最中に人知れず行方を眩ましてしまう……。
監督のエスティバリス・ウレソラ・ソラグレンは、インタビューの中で本作のストーリーが生まれたのは、厳格なジェンダーの枠組みを問う必要性を感じたからと語っているように、“男らしさ”や“女らしさ”に象徴される従来のジェンダー規範について作品を通して改めて問い直す。一方で監督は、本作をトランスジェンダーだけにテーマを絞ったつもりはないとも語っている。実際に、劇中では母であるアネがアイトールを「性別は関係なく自由に育てた」と胸を張るが、対して祖母は「幼い子には自由過ぎるのもよくない。子供には親が線を引いてあげることも必要」と諭す。また、父親はアイトールの悩みに理解を示しつつも世間の目を気にするなど、世代間や性差においてそれぞれの考え方の違いを描いており、性的マイノリティという大きなテーマを抜きにしても、子育てを経験した親であれば誰しもがハッとさせられる瞬間があるはずだ。
“本当の自分”とは何なのかを探しながら、成長を重ねていくアイトール。それに戸惑い葛藤しながらも受け入れようとする周囲の人々を描いた温かくも新しい家族の物語を、お見逃しなく。
2024年1月5日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷他、全国順次公開
監督、脚本:エスティバリス・ウレソラ・ソラグレン
撮影:ジナ・フェレル・ガルシア
美術:イザスクン・ウルキホ
編集:ラウル・バレラス
出演:ソフィア・オテロ、パトリシア・ロペス・アルナイス、アネ・ガバライン
2023年|スペイン|128分|1:1.85/スペイン語・バスク語・フランス語|英題:20,000 SPECIES OF BEES|カラー|5.1ch|字幕:大塚美左恵
配給:アンプラグド 後援:駐日スペイン大使館
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