NEW GENERATION, NEW WAVE
ABOUT OCT, 2024
KOSAKU KANECHIKAでは、7月10日(土)まで、沖潤子の個展「よびつぎ」を開催している。
沖潤子は、鎌倉市を拠点に活動するアーティスト。ボロと呼ばれる古い布や道具が経てきた時間や、その物語の積み重なりに、刺繍という手法を用いて彼女自身の堆積を刻み込み、紡ぎ上げることで新たな生と偶然性を孕んだ作品を発表してきた。国内外で行われる個展やグループ展をはじめ、2014年には、作品集「PUNK」(文藝春秋刊)を発表し、⾦沢21世紀美術館に作品が収蔵されるなど、現代のアートシーンにおいて確固たる地位を確立している。
「よびつぎ」と題された本展は、⼭⼝県⽴萩美術館、浦上記念館で今年3月まで1年間にわたり展示されていた「anthology」の続編に位置する。「anthology」では、全国から寄せられた7,000個あまりの⽷巻きを⽤いて、新たに紡ぎ⽣まれたインスタレーション作品が展示されていた。どこかの誰かによって使いかけのまま時が⽌まった⽷巻きは、沖が紡ぎ出す刺繍によって新たな時間を刻み始め、それぞれが持つ物語はまた、展示空間で新しい物語へと続いていった。今回の展示では、「anthology」で展示された作品にさらに手を加えたものと、新作が合わせて展示される。
タイトルのよびつぎ(呼継ぎ)とは、陶芸の技法のひとつで古い窯跡を掘り返してみつけた膨⼤な破⽚の中から合うものを⾒つけて継ぎ合わせること。なお、沖は本展の開催に際し、以下のようなコメントを寄せている。
「昨春より1年間、⼭⼝県⽴萩美術館、浦上記念館茶室にて展⽰をしていた作品をこの夏あらためてご覧いただくことになった。特別な1年を経て帰ってきた作品たちを眺めていたら、そこに新しい時間の層を重ねたくなった。ハサミを⼊れ針⽬を加えたらどんな⾵景が⾒えるだろうか。それを⾒ないことには前に進めない気がした。できあがった作品は、新旧の時間が抱擁しあっているように私には⾒える。ここからまた歩きはじめるのだ」
沖自身も“特別な1年”と語るように、連綿と続いていく時の流れの中で、昨年から現在に至るまで世界中で起きているパンデミックは、誰しも時計の針が止まったような不思議な感覚を覚えたはずだ。「時間の層を重ね、違う⾵景をみつける」ことを目指す沖の作品が、特別な1年を経過した後にどんな針を入れ、何を繋ぎ合わせたかは、ある作家の心の内を映し出した一例として、鑑賞者にとっても何かしらの示唆を与えてくれるだろう。また、気の遠くなりそうな極めて精緻な刺繍であると同時に、完成までの過程から逸脱し、予定調和を壊していくような荒々しさと念を感じさせる作品からは、多様なものを取り込む寛容さに加え、荘厳な静けさとその奥でたぎる激しいエネルギーが見てとれる。その超絶的な技巧に宿る静謐なエナジーと、新たに紡ぎ出された物語の続きをぜひ感じとってみてはいかがだろうか。
会期:開催中(7月10日まで)
開廊時間:11:00~18:00
休廊日:日、月、祝
入場料:無料
会場:KOSAKU KANECHIKA
東京都品川区東品川 1-33-10 TERRADA Art Complex 5F
TEL 03-6712-3346
kosakukanechika.com